腹膜偽粘液腫
腹膜偽粘液腫はどんな病気?
腹膜偽粘液腫とは腹膜に生じる腫瘍の一種で、粘り気のある液体が腹腔内に溜まる点が特徴です。この粘液は虫垂や卵巣などに生じた腫瘍が破裂し、腹膜と呼ばれる臓器を包む膜に細胞がまき散らされた結果生じるものです。
この細胞はゼラチン状の粘液を産生しながら腹腔内で増殖し、他の臓器に広がっていくケースもあります。
リンパ節や肝臓、胸腔内などに転移がみられる場合がありますが、他の臓器への転移は極めてまれです。
腹膜偽粘液腫は、良性から悪性のケースまで幅広く存在する良悪性の疾患とされています。
腹膜偽粘液腫自体はまれな疾患で、その発症に至るメカニズムは解明されていません。
徐々に粘液が溜まり、お腹を圧迫するようになると痛みや発熱などの症状を引き起こします。
粘液が肺を圧迫し呼吸困難の原因となったり、臓器を圧迫することで鼠径ヘルニアの原因となるケースもあります。
治療において粘液を完全な除去することは難しく、化学療法による治療が一般的です。
主な症状
腹膜偽粘液腫を発症すると、お腹にゼラチン状の粘液が蓄積します。この粘液が生じ始めた初期段階では症状がなく、早期に発見するのが難しい疾患とも言えます。
初期で診断に至るケースとしては健康診断の超音波検査などで偶然発見された場合が多いです。
進行して徐々に腹腔内に粘液が増えていくと溜まった粘液がしこりのような塊になることもあります。
この段階になると痛みや発熱、腹痛、吐き気などの症状が現れる場合があります。
また、粘液の量が増加することでお腹が妊婦のように大きく膨張したり、肺が圧迫されるため息苦しさを覚えることが多いです。
粘液の塊が周辺の臓器を圧迫すると突然に鼠径ヘルニアを引き起こしたり、腎機能が低下なども見られ、虫垂炎のような症状が現れることもあります。
また特に重篤なケースとしては腸管や膀胱に穴が開き、腸漏、膀胱漏などに至る場合があります。
その他、胆管の圧迫による黄疸、胸腔転移による呼吸困難なども合併症の一つといえます。
主な原因
腹膜偽粘液腫を発症する原因は現在のところ明らかになっていません。腹膜偽粘液腫は良性、悪性ともに存在します。
悪性の腹膜偽粘液腫には上皮増殖因子受容体と呼ばれる特殊なたんぱく質が含まれることが明らかになっており、何らかの遺伝子変異が発症に関連しているのではないかとされています。異常発現している遺伝子の特定や、予後との関連については現在も研究が進められています。
粘液腺腫やがん細胞が原発巣となる臓器で繁殖し、腹膜偽粘液腫腫瘍が破れて腹腔内にこぼれ落ちることが始まりです。
この細胞が腹腔内をただよって腹膜に着床し、増殖します。
リンパ管開口部から進入、粘液を作りながらさらに増殖することで粘液の塊が作られるという流れです。
腹膜偽粘液腫はきわめてまれな疾患で、約100万人に1人の割合で発症がみられるとされています。
原発巣となるのはその多くが虫垂とみられてますが、卵巣を原発巣とする場合もあります。
周囲の臓器への浸潤するケースはそれほど多くなく、転移巣を切除しやすいという点が特徴と言えます。
主な検査と診断
腹膜偽粘液腫は、まず現れる症状などから発症を疑われ、CT検査、血液検査、病理検査などの結果から診断がくだされます。主にCT検査では、腹腔内の粘液やその塊、周辺の臓器への圧迫などを調べます。
多発する腹膜腫瘍が確認でき、ホタテ貝の辺縁のような特徴が見られます。
虫垂や卵巣の腫大なども同時に確認することで、原発巣の特定にも役立ちます。
血液検査は全身の状態を把握する目的で行われ、主に炎症や貧血の有無が確認できます。
腎機能、肝機能に関連する数値も同時に調べることが多いです。腫瘍マーカー検査によって、症状が類似している腹膜播種の可能性が無いかと確認できます。
病理検査では、粘液の一部を採取して顕微鏡で観察します。採取する際に粘液の粘り気が強く、採取がしにくい点は腹膜偽粘液腫の特徴とも言えます。
治療前の段階では、お腹から針を刺して組織を採取する方法で行われますが、手術の後に切除した組織の一部を調べる方法もあります。
主な治療方法
腹膜偽粘液腫は、粘液を完全に除去することは困難であるため、腹膜切除によって腫瘍の完全切除をするか、残った小さな腫瘍を術中温熱化学療法によって治療する方法が用いられます。基本的にごく早期の転移であればその部位のみを手術によって切除することも可能ですが、広がった転移を完全切除することはできません。
腹膜切除という方法では、従来切除が不可能と考えられていた腫瘍をすべて摘出することも可能です。
また完全切除を行った症例の予後はきわめて良好とされています。ただこの手術の方法が行われている施設は現在のところ限定です。
術中温熱化学療法とは手術中におなかの中を温めながら抗がん剤の散布を行う方法です。
抗癌剤による全身化学療法を行ったとしてもあまり効果がないと考えられています。
血流が乏しいため投与した抗がん剤が届きにくく、増殖も遅いため薬剤が効きにくいことが理由として挙げられます。
細胞が死滅しても粘液が残ります。