今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『胃癌の抗癌剤はここまで進化!』をご紹介させて頂きます。

私たちが癌を恐れる最大の理由は、もちろん死です。しかし死をもたらす病気は他にもたくさんあるにも関わらず、私たちは癌を特別に恐がります。それは癌には、死以外にも恐い要素があるからです。癌の痛みも恐いです。癌の痛みは、麻薬を使って鎮静させるほど強いからです。
恐さはまだあります。それは抗癌剤です。しかし最新の抗癌剤を知ると、「抗癌剤=恐い」というイメージは、必ずしも正しくないことが分かると思います。
ここでは胃癌治療で使われている「現代の抗癌剤」を紹介します。
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「恐ろしい薬」は過去のイメージ

「コウガンザイ」という言葉を聞くと、猛烈な吐き気、毛が抜ける、体力の消耗といった恐ろしいイメージが浮かぶと思います。「こんなに恐ろしい薬はない」そう感じている人も少なくないと思います。
しかし兵庫医科大の消化器内科主任教授の三輪洋人医師は、「現代の胃癌の抗癌剤治療は、20年前と比べ物にならないくらい進化しています」と胸を張ります。

手術ができないときに使う

胃癌の治療で抗癌剤を使うのは、主に転移したときです。胃に発生した癌細胞が、肝臓や肺に転移すると、もう手術では取り切れなくなります。胃や肝臓や肺などあらゆる臓器にメスを入れてしまうと、癌を取り除いても体がもたないからです。
そこで抗癌剤で癌を小さくしたり、大きくなるのを防いだりして、患者が長く生きられるようにするのです。
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新たな希望を作った新薬

胃癌の抗癌剤治療では、1次治療と2次治療があります。よりマイルドな抗癌剤で1次治療を行い、それで効果が出なかった場合、2次治療に移ります。2次治療では別の強力な抗癌剤を使うのです。
しかしこれまでは、1次治療には長生きできるデータが出ていましたが、2次治療には長生きできるデータが出ていませんでした。つまり医学的には「2次治療を行った場合と、2次治療を行わなかった場合では、生存期間にそれほどの差はみられない」という残酷な結果になっていたのです。

しかし2015年に、2次治療で使う薬に新薬が登場しました。この新薬は既に「2次治療を行った方が確実に生存期間が延びる」ことが実証されています。それではまず1次治療から解説していきます。

3カ月が1年半に、完全に消えることも

三輪教授は「かつての抗癌剤は『使ってみなければ分からない』という薬でした。しかしこの20年間の進歩で、効果を予測しながら抗癌剤を選択できるようになりました。抗癌剤を長く使って、長く生きていただくことができるようになったのです」と話します。
20年ほど前であれば、胃癌が転移して手術ができないような場合、生存期間は3カ月程度でした。しかし、現在の平均の生存期間は1年半にまで延びました。さらに癌が完全に消えたり、癌が小さくなって手術ができるようになった患者も増えているのです。
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1次治療は5つの薬から2つを選ぶ

このようなことができるようになったのは、胃癌の抗癌剤の種類が増え、患者ごとに合った薬を選択できるようになったからです。
胃癌の抗癌剤1次治療で使われる薬は「S-1」「シスプラチン」「カペシタビン」「オキサリプラチン」「トラスツズマブ」の5つです。しかし5つすべてを使うわけではありません。

1次治療の第1選択は「S-1とシスプラチンの2剤併用」か「カペシタビンとシスプラチンとトラスツズマブの3剤併用」となります。癌細胞の性質によって、2つの第1選択肢の中から選びます。
ただどちらの第1選択肢にも入っているシスプラチンは腎臓に悪影響を及ぼす可能性があるので、腎臓に持病がある患者にはシスプラチンを外して、オキサリプラチンを使います。そのほか、患者の状況を見ながら、抗癌剤を選び2剤または3剤を選ぶのです。

副作用を減らす薬

さらに、抗癌剤による副作用対策も進化しています。吐き気や食欲不振を防ぐ薬を使うことで、無理なく抗癌剤治療を続けることができます。それでも副作用が強い場合、抗癌剤を一時的に減らす技術も確立されました。減らすタイミングを計ることで、抗癌剤の効果を維持しつつ、しかし副作用を減らすことができるようになったのです。

2次治療にラムシルマブ登場

1次治療で効果が出なかった場合、2次治療に移ります。かつての2次治療で使われていた抗癌剤は「パクリタキセル」か「イリノテカン」か「ドセタキセル」のいずれか1剤でした。先述した通り、この薬は「生存期間を確実に延ばす」とは言い切れないものでした。
そこで2015年に登場したのが「新2次治療」です。「パクリタキセル」と新薬「ラムシルマブ」の2剤併用です。
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分子標的薬で兵糧攻め

新薬であるラムシルマブがどうやって癌をやっつけるのか、そのメカニズムを見てみます。
癌細胞はとてつもなく「図々しい奴」で、どんどん増殖し続けるだけでなく、自分に必要な栄養を確保するために、新たな血管を作り出してしまうのです。これを「血管新生によってできた血管」といいます。
元からある太い血管に、癌細胞が作り出した「血管新生によってできた血管」を連結させることで、血液中の酸素と栄養を吸い取るのです。
ラムシルマブは、この血管新生を邪魔するのです。癌への栄養供給を断つ兵糧攻めです。
ラムシルマブの特徴は、癌細胞も正常細胞も闇雲に殺す薬ではないということです。つまり、極めて特殊な目的を達成できる薬なのです。このような薬を分子標的薬といいます。

生存期間が劇的に延びた

この「新2次治療=パクリタキセル+新薬ラムシルマブ」については、国際的にデータが集められました。その結果は、「旧2次治療=パクリタキセル1剤」での生存期間が7.4カ月だったのに対し、「新2次治療=パクリタキセル+新薬ラムシルマブ」は9.6カ月でした。明らかに長生きできるようになったのです。

まとめ

紹介したのは胃癌の抗癌剤治療についてです。抗癌剤は、癌の発生部位ごとに研究が進んでいます。癌の治療を受けるには、情報収集は欠かせません。
しかし癌に関する情報は、危ないニセ情報も多いです。十分注意してください。
(資料:兵庫医科大消化器内科)

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