今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『「はしか」 恐れられる病気の正体とは・・・』をご紹介させて頂きます。

人気外国人アーティスト、ジャスティン・ビーバーさんが2016年8月に来日し、千葉市の幕張メッセでコンサートを開きました。そのことを、お堅いイメージのある毎日新聞が大々的に報じました。内容はもちろん、ビーバーさんのパフォーマンスについてではありません。はしかの感染者が1人、コンサートに参加していたのです。
「はしかってそんなに大袈裟な病気だったっけ?」と感じた方は、ぜひ最後まで読んでください。知らないと「やばい」ですよ。
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発病しているにも関わらず東京、神奈川、千葉へ

毎日新聞の記事によると、はしか感染者は兵庫県在住の男性で、コンサートに参加する少し前にインドネシア・バリ島に訪れていました。8月9日に39度の熱があり、この時点ではしかが発病したにも関わらず、男性は13日から東京と神奈川を旅行し、そして14日にはビーバーさんのコンサートを鑑賞しました。
コンサートの来場者は2万5千人にものぼります。男性の同居家族3人もはしかを発症しています。

排除したはずが…

「麻疹(ましん)」というより「はしか」の方が名称として知られています。国内での発症はごくわずかで、WHOが 2015年、「日本は麻疹の排除状態にある」と認定しました。はしかは肺炎や脳炎を引き起こす恐い病気です。それを克服したわけですから、日本の医療の新たな勝利といえるでしょう。
しかし最近また、はしかの話題が増えています。今回のビーバー・コンサートの一件の前から「輸入」が問題になっています。はしかが流行している国に行った日本人が帰国して、はしかを発症するのです。
それでは次に、モンゴルからの帰国者の発症事例を紹介します。また、はしかの基礎についてもみてみましょう。
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モンゴルは日本の722倍

2015年の国内のはしかの発症件数は35件と、過去最低となりました。しかしアジアに目を向けると、はしかの撲滅にはほど遠い状況です。人口100万人当たりにはしかの発症件数は、日本は0.2人です。発症が多い国は、フィリピン13.9人、パプア・ニューギニア23.4人、中国35.6人となっています。
しかしアジアで断トツに多いのはモンゴルで、なんと144.3人です。日本の721.5倍にのぼります。

厳重な監視下に置かれる「第5類」

はしかは「感染症法第5類」というグループに属し、医療機関がはしか患者を診察したら、全件を保健所に届け出なければなりません。また、感染から発症、さらに治療に着手するまでの患者の行動を逐一把握して、接触者も調べ上げます。
さらに、国立感染症研究所を通じて、これらの情報が公開されます。つまり、国を挙げて厳重に監視している病気なのです。
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感染から8日目に頭痛、発熱

2015年7月、モンゴルから帰国した30代の日本人男性が、はしかを発症しました。男性は5年前からモンゴルと日本を行き来していました。
帰国したのは7月8日で、その6日前になる7月2日に、モンゴル国内の病院にはしかで入院していた知人を見舞いました。このとき男性に感染したと思われます。
最初に症状が出たのは7月10日です。感染から8日後のことです。頭痛と発熱から始まり、日を経るごとに熱は高くなり38度台が続きました。さらに掌と足裏に発疹ができたため、男性は7月13日に近くのクリニックを受診しました。

誤診されやすい病気

ところがクリニックの医師は、男性の病気を「手足口病」と誤診してしまいます。当然薬も、手足口病に使われる抗菌薬でした。それで治るはずがなく、症状は悪化します。咳、喉の痛み、鼻水、充血、体中の発疹、水のような下痢などです。
そこで男性は再びクリニックを訪れます。今度は大きな病院を紹介されました。はしか疑いで入院しました。この日は7月16日です。感染から14日目、発症から6日目となります。
すぐに保健所の職員が病院にやってきて男性と面談しました。渡航歴を聞き取ったり、PCR検査というはしか専用の検査を行い、はしかが確定しました。

詳細かつ徹底的な追跡

保健所の調査は、詳細かつ徹底的です。帰国した7月8日から、入院した16日までのすべての日の男性の足取りを追跡しました。
男性と接触し感染の疑いがぬぐえない人を「計79人以上」と算出しました。その内訳は、60代両親、30代の友人A、クリニックスタッフ15名、クリニックの患者61人、運転免許センター不明、映画館不明、飲食店不明となっています。
しかも特定できた79人については、全員に、はしかの予防接種を受けているかどうか調査しました。

反省点

幸い、2次感染者は見つかりませんでしたが、それは単に運が良かっただけのようです。国立感染症研究所は、「7月12日からコプリック斑を認めていたが、主治医は当初、手足口病との診断で経過観察しており、麻疹の臨床診断に3日間を、確定診断に至るまで計4日間を要した」と厳しい口調です。コプリック斑とは、はしかに特徴的な肌の模様です。

同研究所は、クリニックの医師が誤診してしまったのは「はしかがあまりに希少な病気になりすぎて医師が診察の経験を積めないため」とみています。同研究所は、「はしかが撲滅されていない国への渡航歴がある場合は、麻疹も念頭において鑑別診断していただけるように医師研修会等で啓発していきたい」と危機感を募らせています。

はしかとは

はしかは、麻疹ウイルスに感染して発症します。感染経路は、くしゃみや咳などの空気感染や飛沫感染のほか、接触によってもうつります。人から人にうつるのです。
麻疹ウイルスはリンパ節から全身に広がります。

感染後10~12日で発熱、倦怠感、不機嫌、くしゃみ、咳、充血が現れます。下痢や腹痛が出ることもあります。
その後一時熱が下がるのですが、再び高熱に見舞われ、このときに耳や首、額に発疹が出ます。発疹は顔面、胸や腹、背中、腕に広がります。
しかし大半の患者は、発疹が全身に広がってから4日以内に治ります。
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肺炎と脳炎で死亡例も

はしかが恐いのは合併症です。肺炎の中でも「巨細胞性肺炎」は、肺が麻疹ウイルスに感染して起きます。そのため死亡例が多いのです。
また、子供の場合、麻疹ウイルスが中枢神経に感染すると、「亜急性硬化症全脳炎」を発症します。中枢神経は脳から直接出ている太い神経ですので、ここがやられると被害は甚大です。知能障害、運動障害が起き、半年後には死亡することが多いです。

まとめ「治療法はない」

はしかの治療法はまだ確立されていません。肺炎、脳炎、中耳炎などの合併症を抑える治療は行いますが、はしか自体の症状は時の経過と自然治癒力に任せるよりありません。
そこで重要なのが予防です。
日本の予防接種法では、生後12~90カ月の間を、麻疹ワクチンの接種年齢としています。また成人については、はしかがはやっている国に行くときに注意することしかありません。ビーバー・コンサートやモンゴルの事例などを学び、感染のリスクを下げる行動をする、これしかないのです。

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