今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『胃がん治療法、医師から「あなたが選んで」と言われたらどうする?』をご紹介させて頂きます。

胃がんの治療法の進化は目覚ましいものがあります。多くの消化器外科医が「日本の胃がん治療は世界1」と胸を張るほどです。そのおかげで初期の胃がんは「死なないがん」のひとつに数えられています。
患者にとっては喜ばしいことですが、1つだけ問題があります。重大な治療法を患者自身が選ばなければならないケースがある、ということです。選択肢が複数個あり「医学的なメリットとデメリット」の量が同じだった場合、「患者としてのメリットとデメリット」の大きさで決めるしかいないからです。
もしあなたに胃がんが見付かって、医師から「治療法はあなたが選んでください」と言われたらどうしますか?
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目覚ましい内視鏡の進化

治療法が複数存在する「胃がんの状態」のことを「適応拡大病変」といいます。実際に起きた例を紹介します。患者は50歳の男性です。定期検査で胃がんが見付かり、大きさは直径5センチでした。10年前であれば、お腹を切り開く開腹手術によって胃を切除するしかありませんでした。
ところが最近の内視鏡の進化は目覚ましく「おとなしいがん」であれば、5センチでも内視鏡で切り取ることができるのです。
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「あなたが決めてください」!!

医師はこの患者に対し、「従来は開腹手術で切り取るしかなかった状態ですが、現在は内視鏡治療も行えます。最終的にはあなたが決めてください」と言いました。
その際医師は、メリットとデメリットを説明しました。
・内視鏡のメリット:体への負担が小さい、デメリット:再発のリスクが小さくない
・開腹手術のメリット:再発の不安が減る、デメリット:体への負担が大きく入院期間も長期化する

「適応拡大病変」とは、どの治療法が「適応」するかの選択肢が「拡大」した「病変」という意味です。交通網の発達により、東京から名古屋に行く選択肢が、徒歩、国道1号線、東名高速道路、新幹線、飛行機、そしてリニアモーターカーと拡大するのと同じです。

胃がん治療では、「この状態ではこの治療法を選択するべし」という内容を記した「治療ガイドライン」がかなりしっかり確立しています。しかし治療法の数が増えた結果、適応拡大病変という概念が現れてきたのです。
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条件は3つ

胃がんの「適応拡大病変」の定義はしっかり決まっています。ま
内視鏡による治療を選択できる前提条件その1は、転移がないことです。リンパ節やほかの臓器に転移している場合、内視鏡による治療は選択できません。
さらに、胃の「壁」は「粘膜」「粘膜下層」「筋層」「しょう膜」の4層構造ですが、がんが粘膜にとどまっていることが、内視鏡を選択できる条件その2になります。
条件その3は、そのがんが「おとなしいがん」であることです。おとなしいがんを「分化型がん」といいます。

「しなければならない」と「してもよい」の違い?!

ここからが少し複雑な話になるのですが、がんの転移がなく(条件その1)、粘膜にとどまっていて(条件その2)、「おとなしいがん」(条件その3)で、なおかつ「2センチ以下」の場合、「内視鏡を選択できる」のではなく、「内視鏡で治療しなければならない」と定められています。つまりこのような「条件が良い」状態のがんの場合、開腹手術は「やりすぎ」の治療と考えられているのです。

また、がんの転移がなく、粘膜にとどまり、おとなしくないがんの場合でも、がんの大きさが直径2センチ以内の場合、再び「適応拡大病変」とみなされ、患者が開腹手術か内視鏡治療化を選択できるのです。
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ESDとは…

さて、さきほどから「内視鏡による胃がん治療」と表現してきましたが、正式名称があります。「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」といいます。治療の手順を解説します。

内視鏡は口から飲みます。内視鏡の先端ががんに到達すると、内視鏡の先端から「注射針のようなもの」を出し、がんの下に刺します。「注射針のようなもの」からは生理食塩水が出ます。これによりがんを「丘」状に盛り上げるのです。
「注射針のようなもの」はこれでお役御免になりますので、引っ込めます。次に同じ内視鏡の先端から「電気メス」を出します。電気メスをがんの周囲に当てることにより、がんを切り取るのです。がんを生理食塩水で盛り上げたのは、電気メスが当たりやすいようにするためなのです。

まとめ

ただこのESDは、高い医療技術が必要になります。この治療が受けられるのは、地域の基幹病院やがん専門病院などに限定されます。つまり、かかった医療機関で必ずESDが選択できるわけではありません。
その場合、医師に「ESDの治療が適応かどうか、セカンドオピニオンを受けたい」としっかり伝えなければなりません。病気の知識と治療の知識は、こういうときに生きてくるでしょう。

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