透析
ニューイングランドジャーナルという世界でもっとも権威のある週刊誌に“透析”という題名で総括がでました。医療誌としては最高峰の雑誌です。学生の頃から読んでいた雑誌なので、何が書いてあるかとても興味があり読みました。ちなみにエイズの最初の報告とかこの雑誌に載っていてとても印象的でした。
スクリブナー先生が1960にフォローファイバーを編み出して血液を洗って毒素を取るという透析療法が報告されてから、何百万人という人が救われました。その後尿毒というものが大きく3種類あることがわかってきており、これを除去することが透析の目的となっています。第1に尿素窒素に代表される低分子の毒素です。これは透析の膜面積、血流量、時間に依存して除去されます。第2はリンやアミロイドに代表される中分子でこれは膜の穴の大きさによります。第3はアルブミンとくっついている分子で、Pクレゾールが代表です。これはアルブミンと離れた状態なら取れますが簡単に除去量を上げる方法はありません。
透析の効果というものを評価するために様々な方法がとられてきましたが現在では尿素窒素を用いたKT/vがよく、最低でも1.2以上、1.4を目指すのがよいと考えられます。中分子量を除去する穴の大きい膜を使うのがよいといわれていますが、まだ十分な確証は得られていません。同様に透析の時間は長いほうがよろしいという議論もありますがまだ十分な確証は得られておりません。(この点ハイパフォーマンス膜がよい、長時間透析がよいというのが常識となっていますが、この著者はまだはっきりしないと述べています)
1988を境にデータ解析の記録量があがり、統計学的な方法によって、よりよい透析法が科学的、統計的に裏付けされるようになりました。技術や機械も向上し、透析中の事故は激減しました。
1996-2002におけるDOPPS試験から、一年間の死亡率は日本6.6%、ヨーロッパ15.6%アメリカ21.7%であります。この差がどのような理由によるのかは判断できかねます。おそらくアメリカでは透析導入期のカテーテル感染などが大きいようです。
1990年代に行われた、コントロールした、大規模な統計的な試験によるとKT/vは1.2以上がよく、膜の穴が大きいハイパフォーマンス膜(IV,V型)が生命予後がよいとされました。しかし、さらに腹膜還流などの研究を重ねると、KT/vは1.2を超え1.4に達すると、透析としては十分で、生命予後の改善という意味で頭打ちになるのではないかと述べています。
この著者はとくに循環器の合併症に注目しています。循環器の合併症は血管の石灰化や心筋の肥大、繊維化、動脈硬化に関連するものです。たくさんの因子や病気になる機序があげられていますが、それらが透析の場合で特別かどうか解析が必要といっています。
最後にさらに長時間、頻回の治療がコストパフォーマンス、耐えうる治療かどうかなどとの兼ね合いで必要かどうか検討中だと述べています。
アメリカにおける透析事情の部分は割愛しておおよそこのような内容でした。アメリカの現在のトレンドは家庭透析です。毎日寝ている間に自宅で透析するものでこの方法が現在透析センターで行われている透析治療と比較の対象になるようです。私のところにこのような透析を行っているアメリカ人が日本での旅行透析を依頼して来ました。そこで、詳しく教えていただいたのですが、数ヶ月の家庭透析の訓練に合格して自分で透析をしているそうです。機械は小さくベッドの上の台に乗る程度のもので、寝る前にセットして行っているということです。この方は医者か機械のセールスかと間違えそうなほど透析についても機械についてもよくご存知で、もちろん私がオンラインHDFをやっていることを調べてこられた方です。今後、日本でも十分知識、技能があるなら家庭透析はひとつの選択肢になってくるのかもしれません。私自身が透析を受けるのであればやはり、オンラインHDFをしてもらうか、自分で寝ている間に家で透析かどちらを選ぶと思います。
この総説から私の感じ取ったことですが、透析は現在の進んだ方法で行った場合、KT/vで1.4取れればだいたい限界で、それ以上無理に透析しすぎなくてもいいのではないか。循環器の合併症を防ぐことが大事だということのようです。