甲状腺悪性リンパ腫 コウジョウセンアクセイリンパシュ

初診に適した診療科目

甲状腺悪性リンパ腫はどんな病気?

甲状腺悪性リンパ腫とは、血液細胞に由来する甲状腺がんの一種です。
白血球の1つであるリンパ球ががん化して発症します。血液・リンパの腫瘍である悪性リンパ腫が甲状腺に生じます。
甲状腺がん全体の約1~5%程度を占める比較的稀な悪性腫瘍と言えます。特に高齢者に発症が多く、中でも60歳〜70歳代の女性に多い傾向があります。

ほとんどの場合、慢性甲状腺炎である橋本病が原因となって発症します。
橋本病ハ慢性的に甲状腺に炎症が生じ、甲状腺機能の低下が見られるようになる疾患です。
橋本病に罹患しており、甲状腺が大きくなったと感じる場合は特に注意が必要です。
症状の進行には個人差があり、1か月以内に急に大きくなるケースや、1〜2年かけて徐々に増大するケースがあります。甲状腺の増大に伴って呼吸困難を生じる場合もあります。

甲状腺悪性リンパ腫の治療は化学療法を中心に行われます。転移などが見られず甲状腺に限局した甲状腺悪性リンパ腫であれば、比較的予後も良好なケースが多いとされています。

主な症状

甲状腺悪性リンパ腫を発症していても初期の段階では多くの場合自覚症状はほとんどありません。
進行してから現れる症状としては甲状腺全体が急速に腫れる、嗄声(かすれ声)、呼吸困難などが典型的です。
腫れた部分がしこりとなり、まれに圧痛を生じることもあります。
甲状腺悪性リンパ腫によって生じるしこりには固さがありますが、甲状腺がんの種類によってはしこりが柔らかいものもあります。

特に声のかすれ、しこりを押した際の圧痛などは甲状腺がんの中でも甲状腺悪性リンパ腫や未分化がんに見られる特徴的な症状と言えます。
その他にまれに現れる症状としては違和感、呼吸困難感、飲み込みにくさ、誤嚥、圧迫感、血痰などが挙げられます。

また悪性リンパ腫は他の臓器などに転移する場合も多く、甲状腺がんの中でも悪性度が高いとされています。他の臓器や器官に広がると、転移した先でさまざまな症状を引き起こします。肺や気道に広がれば呼吸困難や気道閉塞、肝臓に広がれば黄疸、腹水、骨痛などの症状が現れます。

主な原因

甲状腺悪性リンパ腫を発症する際、原因として最も多いのが橋本病と呼ばれる疾患から起こるものです。
橋本病は甲状腺機能低下症の中で最も多く見られる疾患で、慢性的に甲状腺に炎症が生じて機能の低下が起こります。
炎症反応が慢性的に続くため、甲状腺が破壊され続けて甲状腺機能が徐々に低下していきます。
長期間、橋本病にかかっている場合、甲状腺機能が低下し免疫機能に大きく影響を与えている場合が多いです。甲状腺悪性リンパ腫は免疫不全者が発症する割合が高いとされる疾患です。橋本病に罹患していて、甲状腺の腫れが突然増大した場合は特に注意が必要です。

また悪性リンパ腫全体で見ると細胞内の遺伝子に変異によってがん遺伝子が活性化することなどが原因と考えられていますが、甲状腺悪性リンパ腫においては遺伝的に特異なものは無いと考えられています。甲状腺悪性リンパ腫は再発しやすいことでも知られています。治療が完了した後も定期的な経過観察を継続することが重要です。3~6ヵ月ごとに検査を受ければ再発を早期に発見することができます。

主な検査と診断

甲状腺悪性リンパ腫の診断は、問診、触診、超音波検査、病理組織検査などが行われます。

まず自覚症状についてや、橋本病に罹患しているかなどを問診で確認します。
同時に触診によって甲状腺の腫れを触れて確認します。超音波検査、細胞診なども行われます。
超音波検査で腫瘍が確認でき、悪性が疑われる場合にはさらに精密に検査できる細胞診を行うという流れが一般的です。
穿刺吸引細胞診は針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査も行われます。
治療方針の決定には、局所麻酔をかけてしこりの組織を1cm角ほど切除して調べる病理組織診断も重要です。
リンパ腫が化学療法に反応しやすいかどうか、進行速度が早いのか遅いのかなどさまざまな情報を得ることができます。近年では遺伝子診断も併せて行うことで診断精度も向上しています。

必要に応じて甲状腺ホルモン値を測定するために血液検査を行ったり、病気の転移を確認するためにCT検査やPET-CT検査が行われる場合もあります。

主な治療方法

甲状腺悪性リンパ腫の治療は主に放射線治療や化学療法を中心に行われます。
検査によって確認した病理組織のタイプやステージ分類をもとに治療方針が検討されます。
放射線治療単独の治療を選択する場合もあれば、二つを組み合わせて行う場合もあります。
甲状腺悪性リンパ腫の治療において手術による治療が選択されることはあまりありません。

甲状腺内のみに病変があり、腫瘍の悪性度が低い場合には放射線治療のみを行い経過を観察します。
周囲や他の組織への転移がないことが条件です。この段階よりも症状が進行しており、腫瘍の悪性度が高い場合には放射線療法と化学療法が併用されます。

転移がみられず適切な治療が早期に行われた場合、約8割の患者が10年以生存しているという報告もあります。病変の悪性度も予後に大きく影響すると言えます。治療を受けて回復した後も定期的に検診を受けたり、感染症予防に努めながら生活のバランスを整えて生活することが重要です。