前置胎盤

初診に適した診療科目

前置胎盤はどんな病気?

前置胎盤とは、胎盤が子宮の出口を覆ったり、出口の辺縁に及ぶ状態のものを指します。
胎盤は通常受精卵が着床した場所にできますが、なんらかの原因で子宮の下の方の着床しそのまま胎盤ができ、内子宮口の全部または一部を胎盤が覆ってしまう状態になることがあります。
胎盤が内子宮口を完全に覆った状態を全前置胎盤、一部分に重なる状態を辺縁前置胎盤と呼びます。

突然に無痛性の性器出血を起こすのが特徴で、最初は少量の性器出血の場合が多いですが、大量に出血し強度の貧血を起こすこともあります。
出血は子宮収縮時に増量します。常位胎盤早期剥離(はくり)の場合も性器出血が起こりますが、前置胎盤と違って腹痛(激痛)を伴い、腹壁が急激に膨隆・緊張して圧痛(あっつう)を伴います。胎児の心拍動も前置胎盤の場合は異常がないことが多いです。また、前置胎盤では胎位異常(骨盤位など)が高頻度で認められます。

前置胎盤では分娩時に胎児より先に胎盤が先に出てしまうため帝王切開での出産となることがほとんどです。

主な症状

前置胎盤では目立った自覚症状はありません。
特に注意する必要があるのが妊娠中期以降の性器出血です。
痛みを伴わず出血している場合、子宮収縮の増加や子宮の出口が広がったことで胎盤の一部が剥がれ、たまった血液が出てくるためです。出血のパターンとしては少量の出血が数回続くことも多いです。出血が見られた時点で入院となることがほとんどです。

少量の出血の場合、即座に母体や胎児に危険が及ぶものとは言えませんが、その後に大量出血する可能性もあるためすぐに病院を受診するようにしましょう。出血量が多い場合は緊急を要するため、救急車を呼ぶことも選択肢のひとつです。妊娠28週以降に起こることが多いとされていますが、より早い段階で起こる可能性もあります。

妊娠期のみでなく、分娩が終了してから大量出血が起こる可能性があります。前置胎盤は胎盤が付着している子宮下部に筋肉が少なく、出血を止める力も弱いです。分娩後の大量出血に備え、輸血の準備をした上で帝王切開が行われます。

主な原因

前置胎盤は受精卵の着床部位が下の方へ移動し、胎盤の面積が拡大することで起こると考えられていますが、明確な原因は明らかになっていません。
リスク要因として挙げられているのは経産婦、過去に帝王切開分娩を経験がある、過去に流産処置、人工妊娠中絶などの子宮内手術の経験がある、高齢妊娠、多胎妊娠、喫煙などがあります。前置胎盤は200件の分娩に約1件の割合で起こるとされていますが、その90%以上が分娩までに自然に解消されます。

近年高齢出産も増加傾向にあり、不妊治療を受けたり帝王切開での出産が増えることにとこなって前置胎盤も増加傾向にあります。

中でもリスクが高いのが帝王切開で、回数を重ねるほどリスクも高まるとされています。また、胎盤が子宮からはがれなくなる癒着胎盤は、前置胎盤の場合に生じる可能性が高いです。分娩が終わっても胎盤が自然に剥がれおちずに大出血を起こす危険があるため出産と同時に子宮ごと取り除くケースもあります。

主な検査と診断

前置胎盤は超音波検査によって発見されるケースが多いです。
妊娠20週以降に性器出血が始まった場合には前置胎盤が疑われ、超音波検査によって状況を詳しく確認できます。
経腟超音波(エコー)検査や腹部超音波検査を行うことで胎盤の位置や血流を確認したり前置胎盤か、早期に剥がれた胎盤とを区別することも可能です。

前置胎盤によって症状が現れている場合には胎児のモニタリングが行われます。十分な酸素を受け取っているかを調べるために胎児の心拍数を確認します。必要に応じてMRI検査なども行われます。

ただ前置胎盤は子宮が大きくなるにつれて胎盤が正常な位置に動くことも多く、これらの検査は一般的には妊娠30週以降に行われることが多いです。妊娠32週で前置胎盤が見られれば診断が確定します。その時点が早期に帝王切開の日程を決定します。出産予定日よりなるべく早く設定することで、手術前に陣痛が来てしまうケースを防ぎます。予定日に近いとおなかの張りが強く、出血のリスクも高くなります。

主な治療方法

前置胎盤は胎盤を正常な位置に戻すことはできないため、根本的な治療はできません。治療は出血のリスクは下げて出産を無事に終えることを目標とします。

生活指導においては無理な運動や性交渉を控え、安静にして過ごすことが優先されます。
もし出血が見られた場合には入院し、おなかの張りを抑える子宮収縮抑制剤などが用いられます。貧血に対しては服薬や点滴により鉄剤を投与して改善します。

警告出血と呼ばれる出血が見られる場合には、突然大出血を起こすリスクがあるため入院管理となることが多いです。

あらかじめ帝王切開の日程を決定しますが、それより以前に出血が起きた場合には母体と胎児の状況を見て緊急帝王切開を行うこともあります。手術中の大量出血に備えて、動脈内にバルーンを入れておき、緊急時にはバルーンを膨らませて子宮へ流れる血液を調整することで出血を抑えるなどの方法もあります。

できる限り子宮の温存が望まれますが、癒着胎盤の場合にはやむを得ず子宮摘出となることもあります。