近年、温暖化などの影響もあり、マダニが媒介する感染症「SFTS」への関心が高まっています。特に週末のレジャーやペットの散歩、家庭菜園、ガーデニングなどを楽しむ方にとって、マダニは決して遠い存在ではなく、身近な場所に潜む脅威です。本記事では、2026年の最新情報に基づき、SFTSの基本知識から見逃せない初期症状、万が一のときの受診の目安、家族とペットを守るための具体的な予防策まで、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。

マダニ感染症(SFTS)とは?知っておきたい基本情報

SFTSは重篤な症状を引き起こすリスクがある感染症です。まずはこの病気がどのようなもので、なぜ警戒が必要なのか、基本的な知識から見ていきましょう。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の概要

SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:重症熱性血小板減少症候群)は、主にSFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで引き起こされる感染症です。このウイルスは2011年に初めて特定され、日本では2013年に国内初の症例が報告されました。ウイルスを媒介するマダニは、家庭内のじゅうたんや寝具に発生するチリダニとは全く異なり、屋外の草むらなどに生息する固い外皮を持った比較的大型のダニです。感染すると体内でウイルスが増殖し、血小板や白血球が急激に減少して、全身のさまざまな臓器に悪影響を及ぼします。

致死率は?どのくらい危険な病気なのか

SFTSの最も注意すべき点は、その致死率の高さにあります。日本国内におけるSFTS患者の致死率は、報告によって6パーセント台から30パーセント程度に達するとされています。これは感染症の中でも非常に高い数値であり、特に高齢者や基礎疾患がある方で重症化しやすい傾向があります。日本国内では2024年に世界初となるSFTS用の抗ウイルス薬(ファビピラビル)が承認・薬価収載されていますが、依然として感染を未然に防ぐこと、そして早期に適切な医療機関を受診して初期の段階から治療・ケアを受けることが極めて重要です。

日本国内での発生状況【2026年最新】

かつてSFTSは西日本を中心に見られる地域限定的な感染症と考えられていました。しかし、近年では生息域の拡大や野生動物の移動、気候変動による影響に伴い、東日本や北日本でも感染例やウイルスの確認報告が相次いでいます。2026年現在、全国各地の自治体が注意喚起を行っており、都市近郊の里山や緑豊かな公園などでも感染リスクが確認されています。居住地を問わず、草むらに入る機会があるすべての人に対策が求められています。

SFTSの感染経路|マダニだけでなく動物からも感染

SFTSの感染ルートは、マダニから人間への直接的な被害だけにとどまりません。身近な動物を介した二次感染の経路についても正しく把握しておく必要があります。

主な感染経路はマダニの咬傷

最も代表的な感染経路は、ウイルスを保有しているマダニ(タカサゴキララマダニやフタトゲチマダニなど)に直接咬まれることです。マダニは草むらや藪の中で、人間や動物などの宿主が通りかかるのをじっと待ち伏せしています。衣服や皮膚に取り付くと、口器を皮膚の奥深くに突き刺し、数日から1週間以上もセメントのような物質で固定して血を吸い続けます。この吸血の過程で、マダニの唾液中に含まれるSFTSウイルスが人の体内に侵入します。

感染した犬や猫から人への感染リスク

ペットを飼っている家庭で特に警戒すべきなのが、動物からの感染ルートです。屋外に出る猫や、散歩中に草むらに入った犬がマダニに咬まれてSFTSを発症することがあります。そして、発症したペットの唾液、血液、吐瀉物(としゃぶつ)などの分泌物に飼い主や獣医師が直接触れることで、粘膜や傷口を通じてウイルスが伝播し、人間がSFTSを発症する事例が報告されています。体調が悪いペットのケアをする際は、素手で体液に触れないよう細心の注意が必要です。

マダニの生息場所と活動時期

マダニは山奥だけでなく、民家の裏山、畑、家庭菜園、河川敷、草が生い茂る公園など、私たちの生活に密着した場所に数多く生息しています。活動時期は春から秋(3月から11月頃)にかけて非常に活発になりますが、冬場であっても気温の高い日には活動することがあります。特に暖かくなる梅雨時から秋口にかけては、野外レジャーや農作業での遭遇率が格段に高まります。

これってSFTS?見逃せない初期症状と進行プロセス

SFTSは風邪や胃腸炎と区別がつきにくい初期症状から始まります。体調に異変を感じたときに適切な判断ができるよう、症状の進行プロセスを理解しましょう。

潜伏期間(6日〜2週間)

ウイルスを保有するマダニに咬まれてから、実際に症状が現れるまでには時間差があります。潜伏期間は一般的に6日から2週間程度です。マダニに咬まれた自覚がない場合も多いため、「最近2週間以内に、草むらや緑の多い場所に行ったかどうか」という行動履歴が、診断において非常に重要な情報になります。

初期症状:風邪や胃腸炎と間違いやすいサイン

SFTSの代表的な初期症状は、38度以上の急激な発熱、強い倦怠感(だるさ)、筋肉痛です。さらに、食欲低下、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢といった消化器症状が高い頻度で現れるのが大きな特徴です。これらの症状は一見、夏の疲れや一般的な感染性胃腸炎、あるいは風邪のように思えるため、受診が遅れがちになります。原因不明の急な発熱と消化器症状が続く場合は、マダニによる感染の可能性を疑う必要があります。

進行後の重篤な症状(意識障害・出血症状など)

病状が進行すると、体内の血小板が急激に減少することで出血が止まりにくくなります。皮下出血(身に覚えのない青あざ)や歯肉出血、血尿などが現れるほか、脳に影響が及ぶと、意識が朦朧とする、会話が噛み合わない、痙攣を起こすといった意識障害・神経症状が発生します。さらに、全身の複数の臓器が正常に機能しなくなる多臓器不全を併発すると、生命に関わる深刻な事態に陥ります。

SFTSと他のダニ媒介感染症(日本紅斑熱など)との違い

マダニが媒介する代表的な感染症には、SFTSのほかに「日本紅斑熱」や「ツツガムシ病」があります。日本紅斑熱やツツガムシ病は、マダニやツツガムシに咬まれた後に高熱とともに全身に特徴的な「赤い発疹(紅斑)」が出現し、刺し口が黒いかさぶたになるのが特徴です。一方、SFTSは特徴的な発疹が出にくく、吐き気や下痢などの消化器症状が強く出ること、安定して高い致死率や重症化リスクがある点で異なります。それぞれ治療法や薬が異なるため、確実な識別が必要です。

マダニに咬まれたかも?受診の目安と病院での伝え方

もし体にマダニが食いついているのを見つけたり、屋外活動後に体調を崩したりした場合は、慌てずに適切な手順で行動することが大切です。自分で無理に解決しようとせず、速やかに医療の力を借りましょう。

マダニに咬まれた時の正しい対処法【自分で取らない!】

皮膚に深く噛み込んでいるマダニを見つけたとき、無理に指やつまみで引き抜こうとしてはいけません。マダニの口器はギザギザのノコギリのようになっており、特殊な物質で皮膚に強く固定されています。無理に引っ張ると、マダニの頭部や口器が皮膚の中にちぎれて残り、化膿や二次感染の原因になります。また、虫体を強く潰すことで、マダニの体液(ウイルスを含む)が逆流して体内に注入されるリスクが高まります。マダニに咬まれているのを発見したら、そのままの状態で医療機関を受診してください。

この症状が出たらすぐ病院へ!受診を判断するチェックリスト

マダニに咬まれた、またはその疑いがある後、2週間以内に以下のような体調の変化が見られた場合は、躊躇せず速やかに病院を受診してください。38度以上の急な発熱がある場合、強いだるさ、関節痛や筋肉痛がある場合、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛が続いている場合、身に覚えのないアザが体にできている、歯茎から血が出る場合、頭痛やめまい、意識がぼんやりする感覚がある場合は特に緊急を要します。

何科を受診すればいい?(皮膚科・内科)

マダニが皮膚にくっついている状態で、まだ全身症状が出ていない場合は、まず「皮膚科」を受診してください。専用の器具を用いて、マダニを皮膚から安全に除去してもらえます。一方で、すでにマダニは取れている(あるいは咬まれた自覚がない)ものの、発熱や胃腸症状などの全身症状が現れている場合は、「内科」または「感染症内科」を受診してください。

受診時に医師に伝えるべきこと

SFTSは医師であっても初期段階では風邪などと区別しにくい病気です。速やかな診断につなげるために、受診時には以下の情報を必ず医師に伝えてください。マダニに咬まれた時期と部位(覚えている場合)、ここ2週間以内に、山登り、ハイキング、キャンプ、草刈り、家庭菜園、ガーデニングなどを行ったか、ペットの飼育状況(犬や猫が外に出るか、ペットの体調に異常はないか)、症状が出始めた具体的な日時と、体温の推移を整理して伝えるとスムーズです。

家族とペットを守る!今日からできるマダニ予防策

SFTSは日頃からの「予防」が最大の防御策となります。日常生活の中で簡単に実践できる具体的な予防方法を身につけましょう。

屋外活動での服装のポイント(長袖・長ズボン・帽子の着用)

マダニを体に寄せ付けないためには、肌の露出を極限まで減らす服装が基本です。首元をカバーするハイネックの服やタオル、帽子を着用し、長袖シャツの袖口は手袋の中に入れ、長ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れ込んで隙間をなくします。マダニが付着した際に見つけやすいよう、黒などの暗い色ではなく、白や明るい色の服を選ぶのもおすすめです。滑りやすいポリエステルやナイロン素材などのアウターを選ぶと、マダニが滑り落ちやすくなり効果的です。

効果的な虫除け剤の選び方と使い方(ディート、イカリジン)

マダニに対する忌避効果が認められている有効成分は、「ディート」と「イカリジン」の2種類です。これらが配合された虫除けスプレーやジェルを使用しましょう。ディートは高濃度なものほど効果が長持ちしますが、小児への使用制限があります。一方、イカリジンは年齢による使用制限や回数制限がなく、子どもから大人まで肌に優しい特徴があります。服の上からだけでなく、首元や手首、ズボンの裾など、肌と衣類の境界線にムラなく塗布することがポイントです。

帰宅後に必ず行うべきチェック(体・衣類・持ち物)

屋外から帰宅した際は、家の中にマダニを持ち込まないためのルーティンを徹底しましょう。玄関に入る前に、衣服や帽子を叩き、マダニが付着していないか確認します。帰宅後は速やかにシャワーや入浴をし、衣服はすぐに洗濯しましょう。入浴時に体を洗いながら、マダニがついていないか手で触って確認する習慣をつけると確実です。特に、わきの下、足の付け根(股部)、膝の裏、手首、頭皮(髪の毛の中)など、皮膚の柔らかい場所を念入りにチェックしてください。

ペット(犬・猫)のためのマダニ対策と注意点

愛犬や愛猫をマダニから守ることは、家族全員の健康を守ることに直結します。動物病院で処方されるノミ・マダニ駆除薬(スポットタイプや経口薬など)を定期的に投与してください。また、散歩や屋外活動の後は、ペットの体表(特に耳、目の周り、指の間、お腹まわりなど)にマダニがついていないかブラッシングしながら確認します。ペットが体調を崩したり、食欲がなくなりましたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。

SFTSの診断と治療法

もしSFTSが疑われる状況になった場合、病院ではどのような検査が行われ、どのような治療が進められるのでしょうか。医療現場での対応について正しく知っておきましょう。

SFTSはどのように診断されるのか(血液検査・遺伝子検査)

SFTSの疑いがある場合、病院では血液検査が行われます。血小板の減少や白血球の減少、肝酵素(ASTやALT)の上昇などが確認されると、SFTSの疑いが強まります。最終的な確定診断には、患者の血液からウイルス遺伝子を検出する「PCR検査(遺伝子検査)」や、ウイルスを分離・同定する専門的な検査が必要となります。これらの検査は、地方衛生研究所や国立感染症研究所などの専門機関と連携して実施されるのが一般的です。

現在の治療法(対症療法が中心)

SFTSの治療においては、患者の全身状態をサポートするための対症療法(適切な輸液や必要に応じた血小板輸血など)が基本となります。さらに、日本では2024年6月に、SFTSに対する世界初の抗ウイルス薬として「ファビピラビル(アビガン)」が製造販売承認され、同年8月に薬価基準に収載されました。これにより、適切な診断に基づいて早期に抗ウイルス薬を用いた治療を開始できる医療体制が構築されています。

マダニ感染症(SFTS)に関するQ&A

SFTSに関して、日常生活の中で抱きがちな疑問や不安について、Q&A形式で分かりやすく回答します。

Q1. 一度かかったら免疫はつきますか?

SFTSに感染して回復した場合、体内にウイルスに対する抗体(免疫)が作られます。しかし、その免疫がどの程度の期間持続するのか、また将来的にウイルスの異なる変異株に対してどのくらい有効に機能するかについては、まだ完全に解明されていません。一度かかったからと過信せず、屋外活動の際には常にマダニ予防策を継続することが推奨されます。

Q2. 元気なペットに触れるだけでも感染しますか?

健康なペット(屋内飼育のみの犬や猫など)からヒトへSFTSが感染した事例は、これまで報告されていません。感染リスクが生じるのは、ペット自身がマダニに咬まれてSFTSを発症し、その唾液・血液・吐瀉物などの体液に直接触れた場合です。日頃の散歩や抱っこなど通常の触れ合いで過度に心配する必要はありませんが、ペットの体調に異変(発熱・食欲不振など)が見られる場合は、体液に触れる際は手袋を使うなど注意し、早めに動物病院を受診してください。

Q3. マダニに咬まれたら必ず発症しますか?

マダニに咬まれたからといって、必ずSFTSを発症するわけではありません。すべてのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではなく、ウイルスを持っている割合は地域や種類によっても異なりますが、一般的には数パーセント程度とされています。しかし、保有しているかどうかを肉眼で判断することは不可能です。万が一に備えて、咬まれた後は体調の変化を慎重に観察することが不可欠です。

まとめ:過度に恐れず、正しい知識でSFTSを予防しよう

マダニ感染症(SFTS)は、確かに致死率が高く警戒が必要な病気ですが、近年では国内で抗ウイルス薬が承認・薬価収載されるなど医療体制も前進しています。過度に恐れて屋外での活動やペットとの豊かな生活をあきらめる必要はありません。適切な服装、効果的な虫除け剤の使用、帰宅後の丁寧なセルフチェック、そしてペットへの定期的な駆除薬の投与という基本の対策を習慣化すれば、感染リスクを下げることが期待できます。また、万が一マダニに咬まれた際も、正しい方法で医療機関を受診することで、重篤化を防ぐための早期対応が可能になります。正しい知識をお守りにして、家族みんなで健康的で安心な毎日を送りましょう。