今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『うつ病の治療薬を知る!『薬の副作用を我慢しないで!』』をご紹介させて頂きます。

NHKの健康番組「きょうの健康」が、うつ病患者に対し、次のことに注意するよう呼びかけています。
・抗うつ薬はすべてのうつ病患者に適しているわけではない
・抗うつ薬を使わなくていい人が使っているケースがある
・必要以上に抗うつ薬を使っている人がいる
NHKがこのような警告を発することは異例です。というのも、この内容は精神科医の治療を否定しかねないからです。精神科領域の専門知識を持っていない医師が精神科疾患の治療に乗り出し、返って症状を悪化させている社会問題を受けているのかもしれません。抗うつ薬の副作用は決して小さくないからです。
今日のテーマは「うつ病の薬の副作用を我慢しないで」です。
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軽症のうつ病には薬を使わない

うつ病は症状の重さによって、軽症、中等症、重症に分けられます。軽症は「生活に支障が出始めている」、中等症は「生活に大きな支障が出ている」、重症は「生活が送れない」という内容になっています。
薬を使うのは中等症と重症の患者です。軽症の患者には、抗うつ薬の効果は「定かではない」ということが分かっています。
薬の効果が定かではないということは、「薬の効果は期待できず、ただただ副作用を我慢しなければならないこともある」ということです。
杏林大学精神神経科の医師、菊地俊暁講師は「医師は、初診時から安易に抗うつ薬を処方すべきではない」と警鐘を鳴らしています。
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軽症のうつ病には何より休養を…

では軽症のうつ病の患者にはどのような治療が適しているのでしょうか。菊地医師は、①休養、②生活改善、③心理教育、④支持的精神療法の4つを挙げています。つまり、軽症の場合、休んだりストレスを減らすようにするだけで、治ることがあるのです。
心理教育は、医師が患者に「うつ病とは」「治療法とは」「つらいときの対処法は」などを教えることです。支持的精神療法は、医師が患者の悩みを聞いたり、日常生活の工夫を話し合ったりします。
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レールの上の鉄道を正常に走らせる

次に、うつ病のメカニズムをみてみましょう。
「人の感情」は、心から発生する何かではありません。人の前で出来事が起きると、その出来事に関する情報は、神経という「鉄道のレール」によって脳に伝わります。そして脳の中で、その出来事が自分にとって快適なのか不快なのかを判断します。
うつ病は、このレールが壊れ鉄道が走れない状態です。「神経」というレールの上を走る、「神経伝達物質」という鉄道の動きが止まったり弱まったりするのです。
抗うつ薬は、動きが弱まった神経伝達物質を活発化する働きがあるのです。
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5種類の薬の紹介

抗うつ剤は主に5種類あります。少し専門的な話になりますので、この段落は飛ばしてもらって、次の「原則は1種類」に進んでもOKです。
①SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬:うつ病を引き起こす「セロトニンの再取り込み」という動作を邪魔する薬です。これにより神経の伝達がスムースになり、うつ症状が解消します。
②SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:うつ病はセロトニンだけでなく「ノルアドレナリンの再取り込み」によっても生じるので、それを邪魔します。セロトニンもノルアドレナリンも神経伝達物質です。
③NaSSA:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:上記のSSRIやSNRIと基本的には同じ作用があります。
④三環系抗うつ薬
⑤四環系抗うつ薬

●原則は1種類
5種類の薬は、いずれも中等症と重症の患者に使われます。原則、軽症患者には使いません。
初めて抗うつ薬を使う患者に処方されるのは、①SSRIと②SNRIと③NaSSAの3つのうちの1種類です。2種類や3種類の抗うつ薬を処方することは、間違った処方とされています。
①②③のうち1種類を処方し、6~7週間服用してもらいます。それで効かなかったり、副作用が強く出てきたら、次の薬を試します。よって3種類の中から、その患者に適した1種類の薬を探し出すまでに数カ月かかります。
患者は「勇気を出して精神科に来たのに、全然つらさが消えない」と思うかもしれません。また、「3種類を全部飲みたい」と思うかもしれません。
しかし当然ですが、医師はじらしているわけではありません。効果と副作用を見極めることが、この治療にはとても大切なのです。
冒頭で登場した菊地医師は「2種類3種類を同時に使うことはきわめてまれ。1種類の薬で治療することが望ましい」と断言しています。
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「ほかの医師に相談して」

抗うつ薬はただでさえ副作用が大きな薬です。2種類、3種類の薬を同時に飲むと、吐き気が出たり、不安が増したりして、症状が悪化してしまうのです。
さらに菊地医師は「もしいま3種類以上の薬を飲んでいたら、ほかの医師に相談してほしい」とも呼びかけています。処方が間違っている可能性があるからです。

患者の判断で薬を止めないで

うつ病は、治療を開始してから治るまで、数カ月から1年もかかります。抗うつ薬はこの期間飲み続ける必要があります。うつ病が軽くなったと思って、患者自身の判断で薬を止めてしまうことは危険です。再発しやすいことが分かっています。
抗うつ薬を突然止めると「中止後症状」という、つらい症状が起きることがあります。主な症状は、めまい、吐き気、不眠、イライラ、手足のしびれなどです。
医師は計画的に徐々に薬を減らすようにしています。

吐き気や眠気、排尿や排便障害も

抗うつ薬の副作用をまとめました。
①SSRI:吐き気、食欲不振、下痢
②SNRI:吐き気、排尿障害、頭痛
③NaSSA:眠気、体重増加
④三環系:口の渇き、便秘、立ちくらみ
⑤四環系:眠気、ふらつき

暴力や自傷行為も

そのほか、すべての抗うつ薬に共通した症状に、不安、イライラ、パニック発作などがあります。これを「アクチベーション・シンドローム」と呼んでいます。
アクチベーション・シンドロームで最も重い症状は、暴力的になったり、自傷行為をしたりすることです。とにかく、抗うつ剤は医師によるコントロールが重要なのです。

ただ、副作用のピークは、使い始めの1~2週間です。それ以降は体が慣れ、副作用の症状も和らぎます。

まとめ

抗うつ薬の効果を実感するには、残念ながら「ある程度の苦労」が必要です。しかしそれは、医師も同じなのです。また、医師は副作用を減らす薬を処方することができます。苦労を共にする治療、それがうつ病の薬物療法なのです。
最後にもう一度、菊地医師の言葉を紹介します。
「うつ病の治療には、患者と医師の信頼関係が大切です。不安があれば、医師に伝えてください。きちんと治療を続けていれば、患者の7割は改善します」

(資料提供:杏林大学精神神経科医師、菊地俊暁講師)

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