今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『認知症』をご紹介させて頂きます。
認知症は、その人がその人でなくなってしまう病気です。とても恐い病気です。そして若い人が発症すると、病気の苦痛に加え、社会的な痛みを味わわなければならなくなります。

認知症を発症するのは、多くは高齢者ですが、まれに若い人も認知症になります。64歳以下の人の認知症のことを、「若年性認知症」と呼びます。認知症の症状を引き起こすメカニズムは、若年性認知症も、高齢者の認知症も同じです。ただ、「認知症を引き起こしやすい病気」の順番が異なります。

若年性認知症を引き起こす病気の中で、最も多い病気は、脳血管障害です。全体の40%に及びます。脳血管障害とは、脳出血脳梗塞くも膜下出血など、脳の血管の病気の総称です。次いで、アルツハイマー病25%、レビー小体型3%となっています。

一方、高齢者の認知症で最も多い病気は、アルツハイマー病で、50%となっています。順に、脳血管障害20%、レビー小体型20%となっています。

認知症

これは、アルツハイマー病を引き起こす大きな要因が「加齢」であるのに対し、脳血管障害は「生活習慣」が関与するからです。それで、若年性認知症の人の脳血管障害の比率と、高齢者認知症の人のアルツハイマー病の比率が、相対的に高くなるのです。

若年性認知症の特徴はもうひとつあります。そしてこちらの方が、より深刻であると考える専門家も多いです。それは、働く世代の人が発症する、ということです。
一般的には「認知症は高齢者の病気」と考えられていますから、まず、周囲の理解が得られないことが多いのです。仕事で大きな失敗をしたときに、「認知症かもしれない」と考える人は、本人を含め、ほぼゼロでしょう。
いよいよ仕事を続けられなくなると、経済状況が一変します。若年性認知症は男性に多く発症します。しかも日本では、男性が一家の大黒柱になっていることが多いです。配偶者や子供がいれば、彼らも苦しむことになるのです。

認知症

専門家は、若年性認知症の特徴を、次のように指摘しています。
①異常には気付くが、受診が遅れる
②初期の症状で診断しにくい
③悪化が速い
④「認知症による問題行動が強い」という偏見がある
⑤経済的な問題が大きい
⑥介護する配偶者の負担が大きくなる
⑦介護する配偶者が、親も介護する「重複介護」になる
⑧子供の教育や結婚に影響を及ぼす

若年性認知症が注目されています!

さて、最近、若年性認知症が注目されています。それは、この人の活動によるところが多いと思います。2013年に、39歳の若さでアルツハイマー型認知症と診断された、丹野智文さんです。丹野さんは、新聞やテレビの取材に積極的に応じ、若年性認知症の理解を広める活動をしています。実名も、顔も公表しています。

そして丹野さんが注目されているもうひとつの理由は、病気を発症しながら、現在も自動車販売会社「ネッツトヨタ仙台」の社員として働いていることです。丹野さんの努力と、会社のサポートが見事にマッチングして、若年性認知症の離職を防止できているのです。

丹野さんは「東北で1位」になったほどの、スゴ腕セールスパーソンでした。ところが2009年ごろから、自分でメモ帳に書いた「佐藤さんに電話」という意味が分からなくなったのです。それでも最初は「疲れているからだろう」「ストレスがたまっているのかな」と思っていました。
しかし同僚の顔すら分からなくなった2013年、病院の物忘れ外来にかかりました。入院して検査した結果「若年性アルツハイマー型認知症に間違いありません」という宣告を受けたのです。夫婦で泣きました。

認知症

しかし、子供が2人います。夫婦で、ネッツトヨタ仙台の社長のところに行き、「洗車作業でいいから、やらせてください」と懇願しました。すると会社は、首にするどころか、総務部への異動を提示しました。
総務部の仕事は、対外的な折衝こそ少ないですが、難しい業務です。複雑な事務処理や、多額のおカネを扱います。法律にも精通していなければなりません。丹野さんはこうした業務を「徹底的なメモ」をすることで、こなしているのです。
「徹底的なメモ」とは、例えば、「固定資産税の支払いの書類の場所」をメモするのだそうです。それも「部屋の角の3番目の棚にボックスがあって、そこから書類を取り出す」とまで書きます。最初に同僚から仕事を教わったときに、こうした「一挙手一投足」を書き記すのです。

そして2冊のノートを用意して、「やるべき仕事ノート」と「済ませた仕事ノート」を作りました。こうしておけば、仕事の進捗状況が分かります。

それでもうまくいかないことがあります。それは、漢字が書けなくなることです。漢字を見ても、文字という認識がなくなるのだそうです。丹野さんはこれも乗り越えました。漢字をパソコン画面に出して、拡大して、「形」として書き写すのです。

丹野さんは、アルツハイマー病の薬を服用しています。その薬には「始終、頭が重い」という副作用があるそうです。そこで会社では、丹野さんに、昼食後に30分の仮眠を認めたのです。このように働きながら、給料は、似た仕事をしている同じぐらいの年次の同僚と同じ額です。

丹野さんは、職場だけでなく、マスコミの取材者ともコミュニケーションが取れます。そのことをもって、「丹野さんは、若年性認知症の人の中でも特別なんだ」と思われるのだそうです。それについて丹野さんは、特別ではないとして、初期の段階で治療を開始したことと、会社の理解によるところが大きいと述べています。

このことは、大きな示唆を含むと思います。つまり、
①若年性認知症を発症しても、過度に深刻にならない
②医療の力を最大限活用する
③職場に理解を求める
④一生懸命働く
といった取り組みをすることで、周囲の偏見をなくし、同僚の支援が得られるのです。その結果、仕事のパフォーマンスを維持できるのです。これは企業にとっても、メリットが大きいのです。丹野さんの生き方と、ネットトヨタ仙台の支援は、とても参考になると思います。

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