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今回は『もぐもぐタイム? 「よく噛む」と何がいいのか?』をご紹介させて頂きます。

「ひとくち30回」の教育は、日本だけではない!

多くの人は、小さな子どものうちから、「よく噛んで食べましょう」と言われて育ったことでしょう。家庭でも幼稚園、保育園、学校でも「よく噛む」習慣は何度も教えられてきました。しかし、現代人の咀嚼(食物をよく噛むこと)回数は、およそ80年のあいだに約半分にまで低下しています。

ひとくちの咀嚼回数は「30回」が望ましいといいます。現代の日本人は、食事の洋食化によって、噛む回数が低下していると指摘する人もいますが、欧米でも「咀嚼は30回を目安に」という教育があります。では、どうして? それは時代とともに、調理器具や調理方法の変化で、軟食(軟らかい食べ物)が好まれることが原因の1つとして考えられています。

そこで、自分の咀嚼回数を気にしてみると、ひとくちに30回どころか、半分の15回も噛んでいないことに気がつきます。そもそも、30回噛む理由はどこにあるのでしょうか。

なぜ、ひとくち「約30回」が望ましいのか?

咀嚼は、食物を小さく砕き、それを唾液と混ぜ合わせて軟らかいかたまり(食塊といいます)にするために行う動作です。前歯で食べ物を大きく噛み切り、奥歯では噛みながらすり潰すことで、食物は小さな食片へと変わります。

そして、食片は唾液と混ぜられて飲み込みやすい1つのかたまりにまとまります。このかたまりが「食塊」です。食塊は、摂取した食物が、食道を通りやすくするためのものです。もちろん、食べ物の種類によって、食塊が作られるプロセス、つまり食塊を作るための咀嚼の回数に違いはあらわれるでしょう。

しかし、咀嚼回数が少ないと食片はまとまらず、食塊が作られにくいことは明らかです。そのため、食物から体に適した食塊を作ることを考えると、「おおよそ30回」という咀嚼回数が今のところもっとも望ましいと判断されています。

咀嚼が生み出す「3つ」の効果

ゆっくり噛むという行為は、
(1)食べ物の味覚を引き出す
(2)消化を助ける
(3)胃腸の働きを活発にする
(4)栄養吸収をスムーズにする
(5)栄養素が体のすみずみにまで効率よく行き渡るのをサポートする
といったメリットがあります。

これら一連のメリットには、唾液が関係しています。よく噛むと唾液がたくさん分泌されますが、唾液には「アミラーゼ」と呼ばれる消化酵素が含まれ、デンプンを糖に分解して、消化吸収を助ける働きにつながります。

また、体の成長や健康の維持に役立つのはもちろんのこと、実は病気の予防やダイエットにもよい影響があります。具体的な効果が確認されているものとして、おもに次の3つが挙げられます。

・ダイエット、肥満の予防
・虫歯、歯周病の予防
・脳の活性化

よく噛むと「ダイエット」効果がある

食事中によく噛む習慣をつけると、脳内の中枢神経が刺激されます。中枢神経は、全身に指令を送る働きをする器官です。よく噛むことで、適量で食欲が満たされ、その感覚が指令として体に送られるため、満腹を感じるようになります。また、咀嚼回数が増えると、ゆっくり食事を摂るようになるため、血糖値の上昇が緩やかになります。

これらの効果によって、食べ過ぎを防ぐことができます。糖質やカロリーの過剰な摂取が抑えられることで、ダイエット効果が期待できるでしょう。

反対に、よく噛まないで食事をした場合、中枢神経が働くまえに、適量以上の食べ物を摂取してしまいます。すると、食事によって満足や満腹が得られずに、ついつい食べ過ぎてしまうことになります。咀嚼回数が少ない人ほど、脂肪がつきやすい傾向は、研究結果としても明らかになっています。内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の人にも、同じ傾向が見られます。

よく噛むと「初期の虫歯」は修復される

よく噛むと唾液の分泌量が増加します。唾液は口のなかの乾燥を防ぎ、雑菌を洗い流す働きがあります。私たちの口内には、約300〜400種類の細菌が生息しているといいます。そのなかのミュータンス菌は、虫歯を作り出す細菌です。糖質から乳酸を作り、歯の成分(カルシウム、リン)溶かして虫歯を作ります。そして、ラクトバチラス菌によって、虫歯が進行していきます。

唾液のなかには、抗菌・殺菌作用に働く成分や、初期の虫歯を修復する成分が含まれています。よく噛む習慣が、たくさんの唾液を分泌させることで、虫歯や歯周病になりにくい歯や歯茎を作ります。

よく噛むと「記憶力」が向上する

脳内で記憶の働きを担っているのは「海馬」という器官です。海馬の神経細胞は、鍛えれば鍛えるほど活発になり、特に記憶力は向上します。例えば高齢者でも、海馬の神経細胞を鍛えることで記憶力が再生されることは、脳の働きについての研究で分かっています。

脳内の神経細胞を鍛えるには、よく噛む運動が効果的です。よく噛むことで、脳の血流量が増えて、脳細胞の働きが活発になるといいます。なかでも、記憶や知能を統合する大脳皮質の発育に大きな影響を与えます。一食あたり1500回噛むことを続けることで、記憶力が約50%向上したという実験報告もあります。

現代人の「噛む回数」は、昭和の日本人の半分

日本人の咀嚼回数は、時代とともに大きく低下しています。昭和初期頃(約80〜100年前)では、一食あたりの咀嚼回数は、約1400〜1500回であったのに対して、現代人では約620回と半分にまで落ちています。鎌倉時代の日本人は、1回の食事で約2600回噛んでいたといいます。それが弥生時代では一食あたり約4000回も行っていたようです。

食材や食文化の違いもあるので、現代ではそこまでたくさん噛む必要はなくなっているでしょうが、健康や美容のことを考えると、ひとくちあたり約30回、一食あたり1500回の咀嚼を目安に食事をゆっくり楽しむ習慣を心がけたいものです。