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今回は『スポーツ好きの子どもを襲う「イップス」について』をご紹介させて頂きます。

突然、思うとおりのプレーができなくなる

イップスは、緊張や不安など精神的な要因が大きく影響して、体に異変が生じる運動障害です。集中したい場面で、いきなり、自分の思うとおりの動作(プレーやパフォーマンス)ができなくなるのが特徴です。スポーツを行っている子どもから、プロのスポーツ選手にまで幅広く起こる可能性がある病気です。

過去のミスから、大事な場面で「恐怖心」を抱くようになり、
(1)体が硬直する
(2)ギクシャクした動きになる
(3)腕や足にしびれたり震えたりする
(4)細かな力の加減ができなくなる
(5)指先などに力が入らなくなる
といった症状があらわれます。

イップスは「ゴルフ」から始まった

イップスは、もともとゴルフ競技から世間に広まった症状です。スコットランド生まれで、銀髪の貴公子(シルバー・スコット)とも呼ばれ、1930年代にアメリカでプロゴルファーとして、全英オープンや全米オープンで優勝するなど活躍した「トミー・アーマー」を、引退にまで追いやった病気が「イップス」です。

トミー・アーマーは、ツアートーナメントの集中するパッティングで、いきなり手の震えが出るようになり、プレーの乱れを連発する試合が続きました。さらに、その後もイージーなミスを重ねてしまう。そして、パターの練習をすればするほどパッティングが下手になってしまう悪循環におちいってしまいます。

やがて、アーマー氏は、引退を余儀なくされました。激しい緊張やプレッシャーが、彼の筋肉や神経回路を狂わせてしまったのです。それは技術の向上だけでは、克服することが難しいものでした。アーマー氏に自覚はなく、明確な原因も特定できないまま、「いったいどうしたのだろう」と深い疑問だけが残ったことでしょう。アーマー氏は、引退後、自分の体に起こった現象を「イップ(yip = 子犬がキャンキャン叫ぶ)」と表現し、これがイップスの始まりと言われています。

ゴルフや野球以外の選手にも増えている

イップスは、これまで患者の多くは、ゴルフや野球を行う人に限られていたようなところがありました。ところが現在では、テニス、サッカー、バレーボール、バスケットボール、卓球、ボーリング、ダーツなどの競技選手にもあらわれています。

大事な試合でエラーをした、PK(ペナルティーキック)を外した、などこれまでに、勝敗を分ける場面でミスをしたことで「他人に迷惑をかけた」という経験が心の傷となってあらわれます。そして、似たような場面を迎えたときに、特定の動作が反射的に動かなくなる状態です。精神的な緊張から、それまで得意であった動作までも、苦手になるほどです。

静から動に変換する際の筋肉の動きに、何らかの狂いや乱れが起こっています。いずれの競技でも、練習量が豊富で、ある程度の経験を持つ中級から上級者に発症しているのが特徴です。スポーツ以外でも、演奏会で指が動かなくなる「ピアノ演奏者」、舞台上でいきなり声が出なくなる「声楽家」、何十年も行ってきた作業の質がいきなり低下する「職人」などにイップスは起こっています。その発症数は、年々増加傾向にあります。

イップスは「克服する」指導が大事

若い年齢でイップスにかかるケースも少なくありません。イップスを消すには、治療するというより「克服する」という考えが大事です。心療内科医やイップス専門トレーナーなど、専門家の指導のもと、「カウンセリング」、「メンタルのトレーニング」「技術的な改善」など段階を経た方法が必要でしょう。

症状によっては、筋弛緩剤(筋肉のしびれなどを緩和する薬)などを使った薬物療法をすすめられます。しかし、これは対処療法のため、根本的な回復には至らないケースが多いようです。

イップスを克服するには、まず自分を大切にし、「失敗は失敗として受け止め、次は楽しんでみよう」という気持ちの受け入れが大事です。家族や周囲も「楽しむ」気持ちが持てるような環境を作り、見守る姿勢を徹底します。それが、小さな成功体験を積み上げることになり、やがてはイップスから解放されます。

専門家といっしょに、心の葛藤を解きほぐすことから始めます。その他にも、練習内容を見直す、ルーティンを変える、などの工夫が緊張を解き、成果を上げることがあります。

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