今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『遺伝性のガンを予防する「ゲノム診療」とは…』をご紹介させて頂きます。

アンジェリーナ・ジョリーの決断

アメリカの人気女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが「がんを予防するため両乳房を切除した」という衝撃的なニュースが届いたのは、2013年5月です。健康にもかかわらず乳房の切除したのは、遺伝子検査によって、がんの発症リスクを予測したからです。

ジョリーさんは、「BRCA1」という遺伝子に変異が見つかっています。これは遺伝性(家族性)乳がんのリスク遺伝子で、医師からは「乳がんが発症する可能性は87%」と告げられたそうです。2015年3月には、初期卵巣がんの可能性が告げられると、複数の専門医と相談し、卵巣と卵管を切除しています。

アメリカでは、遺伝性がんのリスク遺伝子の変異保因者は、がんの発症リスクが6~12倍になるといいます。アンジェリーナさんの近親者には若いうちに卵巣がんや乳がんで亡くなっている人がおり、母親も卵巣がんのため56歳で亡くなっています。アンジェリーナさんは、乳がんと卵巣がんになりやすい体質を受け継いだのかもしれません。
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遺伝性のがん、日本の取り組みはどうなのか?

遺伝性の乳がん・卵巣がんを含めた家族性腫瘍への対応など、ゲノム(遺伝子)診療の需要は近年増大しています。実際、ゲノム解析の進歩によって、がんに関わるゲノム情報が医療の現場で活用され始めています。

欧米では、アンジェリーナ・ジョリーさんのような遺伝性のがんは、その遺伝子変異によってがん発症の予防措置(個別化予防)が推進されています。

日本では、国立がん研究センターが、今年(2016年)1月から、患者のゲノム(全遺伝情報)を利用して、がんの特効薬を探したり、副作用を回避したりするなどの「ゲノム診療」を中央病院(東京都中央区築地)で本格的に始めています。

がんの発症にかかわる遺伝子異常は、血液中に含まれることが多いとされ、国立がん研究センターは昨年(2016年)12月、わずか5ミリリットルの血液から、がんに関係する60種類の遺伝子異常を調べる新たな手法を開発しています。

遺伝性のがんは全体のおよそ5%と言われ、「希少がん」としてこれまで見すごされてきた経緯があります。がんのゲノム診療が進めば、がんを発症しやすい人を事前に発見し予防したり、発症した場合は副作用をおさえた効果的な治療を行えるようになると期待されています。
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がんの予防と治療は「個別化」に向かう

ゲノム診療は大きく分けて「個別化予防」と「個別化治療」があります。

「個別化予防」は、遺伝的にがんになりやすい人への個別化した予防です。遺伝子の異常による高い確率のがんリスクを避けるため、遺伝子検査による早期発見・効果的な予防、さらに心理面の不安軽減などが外来相談などで行われます。

「個別化治療」は、オーダーメイド治療、あるいはテーラーメード治療とも呼ばれ、いわゆる「個人に合わせたがん治療」を実現するものです。ファルマコゲノミクス(PGxとも表記)と呼ばれるゲノム薬理学の進化で、抗がん剤のような副作用の強い薬剤であっても、投与するまえに遺伝子検査をすることによって、患者にもっとも有効で、副作用の少ない治療方法を選ぶことができます。

がんは遺伝子の病気であり、正常の遺伝子に傷(突然変異)が蓄積した結果として発がんが起こります。ゲノム解析を用いた臨床研究はさらに発展し、ゲノム診療を日常診療に導入することで、がん治療は「個別化」に向かう動きを進めています。