今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『おたふくかぜの恐ろしさ』をご紹介させて頂きます。

おたふくかぜ」は、なぜかひらがなで表記されることが多いです。子供に多く見られる病気だからでしょうか。頬がぷっくり膨れることからファニーなイメージがあります。さらに、一度かかってしまえば免疫ができて、その後は一生かからないことが多いので、警戒心を抱きにくい病気です。

しかし、そんなに軽い病気ではないのです。おたふくかぜの正式名称は「流行性耳下腺炎(りゅうこうせい・じか・せんえん)といいます。厚生労働省は病院に対し、もしこの病気を治療したら、翌週の月曜日までに保健所に届け出るよう指示しています。それは、おたふくかぜが「感染症法」という法律の対象となっているからです。

厚生労働省がここまで警戒するのは、大人がこの病気にかかると、別の恐ろしい病気を引き起こす可能性があるからです。ぜひ大人の方は、この病気を「おたふくかぜ」と呼ばずに「流行性耳下腺炎」と呼びましょう。
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流行性耳下腺炎とは…

流行性耳下腺炎は、西暦500年代には見つかっている病気です。古代ギリシアの医師ヒポクラテスが「耳の近くが両側あるいは片側のみ腫脹する病気が流行した。耳周辺の痛みを伴うこと、睾丸が腫脹することも」といった内容の記述を残しています。この症状は、現代医学的にも正しいとされています。

流行性耳下腺炎は、感染病です。「ムンプス」というウイルスに感染すると、2~3週間後に発症します。感染方法は、くしゃみなどの飛沫感染が主です。
症状は、唾液腺が膨らんで痛みが走ります。耳の下から顎の下、そして頬にかけて、膨れることもあります。つばを飲み込んだだけでも痛みが起きます。

発熱が起き、通常は1~2週間で治りますが、大人の場合、髄膜炎や脳炎、膵炎難聴といった深刻な病気を合併することがあります。男性は睾丸炎、女性は卵巣炎が起きることも報告されています。
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髄膜炎は、脳の中で起きる炎症です。細菌やウイルスが脳に侵入して発症します。この「炎症」は、実は免疫反応です。「免疫」は、体を守る活動です。脳に異物が入ってきたので、免疫細胞が脳に集まり、異物をやっつけているので、炎症が起きるのです。
それでは「髄膜炎の炎症は体に良いことなのか」というと、そうではありません。体に良くないことを引き起こすのです。
炎症が強くなると、脳の血管が詰まってしまいます。その結果、脳卒中を引き起こすことが知られています。また炎症によって脳が傷つくと出血します。脳の中に血液という液体が充満することになり、脳が圧迫され、さらに脳を傷つけてしまうのです。
いずれも死亡する可能性がある恐い病気です。

さらに、睾丸炎卵巣炎は、不妊の原因になりかねません。つまり子供を作れなくなる可能性があるのです。
あるデータによると、睾丸炎流行性耳下腺炎を発症した男性の30%に合併します。卵巣炎は7%に発症します。いずれも統計上は小さな数字ではありません。
また女性の場合、妊娠中に流行性耳下腺炎にかかると、流産のリスクが高まることが知られています。
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これだけ恐い症状を引き起こす病気で、かつ、古くから知られているにもかかわらず、流行性耳下腺炎を治す薬はありません。それは、この病気を引き起こすのがムンプスウイルスという「ウイルス」だからです。
「ウイルス」と「細菌」は、似たような障害を人にもたらしますが、実は別物です。どちらもやっかいな存在なのですが、どちらかというと「ウイルス」の方がよりやっかいです。
それは多くの「細菌」は抗生物質で退治できるのですが、「ウイルス」には抗生物質は効かないのです。さらに「ウイルス」をやっつける「抗ウイルス薬」の開発はとても難しいのです。それでいまだに流行性耳下腺炎の特効薬は開発されていないのです。

この病気の治療の基本は対処療法です。「根本的に治す」のではなく「症状を和らげる」のが対処療法です。「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」という薬を使います。流行性耳下腺炎の治療中に、嘔吐や頭痛が発症したら、髄膜炎などの注意が必要です。嘔吐や頭痛が起きたら、必ず医者に伝えてください。

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