今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『金縛り』をご紹介させて頂きます。

ある有名人のブログを読んでいたら「金縛りにやられた。あれは完全に霊のしわざやな」という記述がありました。もちろん冗談なのでしょう。しかし「もし金縛りの正体を知らない人が読んだら、本当に霊のしわざだと思うのではないか」と心配になりました。
それであえて真面目に、こう書きます。

金縛りは、超常現象でも霊のしわざでもありません。医学的に証明されている睡眠障害です。
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睡眠障害とは…

「なんだ、単なる睡眠障害かあ」と安心もしないでください。睡眠障害は、医師が診る立派な病気なのです。金縛りと似た症状を起こす病気に「ナルコレプシー」という深刻な病気があるからです。

金縛りの正式名称は「睡眠麻痺」といいます。睡眠麻痺に特徴的な症状は、寝入った直後や目覚める直前に、「体を動かそうとしても動かせない」と感じることです。うなされていて誰かに触られて「解除」されることもありますが、大抵は数分で自然におさまります。

また人によっては、「足音が聞こえた」とか「誰かが部屋に入ってきた」「全身を押さえつけられた」「布団がとてつもなく重くなって窒息しそうになった」と感じます。「声を出そうとしたが出せなかった」ということもあります。
まさに超常現象のようですが、繰り返しますが、そういった類のものではありません。
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睡眠は2種類があります!

睡眠は「しっかり眠っている」「ノンレム睡眠」と、「眠っているけど脳が活発に動いている」「レム睡眠」の2種類があります。
通常は、ノンレム睡眠から始まりレム睡眠へと移ります。以降、目覚めるまで、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返します。
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ところが睡眠の導入時に、レム睡眠から始まることがあります。このとき金縛りが起きることが多いのです。「眠り始めている」のですが、脳は覚醒しています。レム睡眠時には、筋肉が弛緩します。「筋肉が弛緩した」という身体的な感覚に「夢のような感じ」が加わることで、脳がとらえる感覚が「加工」され、金縛り独特の症状が作られるのです。

金縛りは「夢」とは違います。夢には「窒息しそうになった」といった身体的な感覚が伴いません。金縛りにかかっているとき、脈拍数や呼吸数が増加することも分かっています。これが「窒息しそう」という感覚に「加工」されたと考えられます。

また、金縛りはいわゆる「夢遊病」とも異なります。夢遊病は正式には「睡眠時遊行症」といい、脳が眠っているのに身体が動かせる睡眠障害です。しかし金縛りは筋肉が弛緩するので、体は動きません。
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ある調査で1万人に聞き取りしたところ、金縛りは10代から始まり、1回でも経験したことがある人は半数に上ったそうです。金縛りを起こしやすいのは、夜更かしや夜勤をする人や、生活のリズムが不規則な人です。ストレスを抱えていることも、発症要因になり得ます。

ナルコレプシーとは…

さて、ここまでが金縛りの解説になります。「金縛りがたまに起きる」だけの場合、治療は必要ありません。ところが、金縛りが頻回に起こり、かつ、日中に過度に眠くなる症状が加わると「ナルコレプシー」という深刻な病気の可能性があります。
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ナルコレプシーは、普通に睡眠時間を取っていても、日中に「ハンマーで頭を殴られたような」強い眠気に襲われる病気です。「眠ってはまずい」と思う間もなく、眠りに落ちてしまいます。1日、何回もこの症状を起こす人もいます。1回の睡眠時間は数分です。数分後に目覚めると、すっきりした感覚を覚えますが、また数時間すると、睡魔に襲われます。

退屈な時間や、長時間の単調な運転中に起きることがあります。つまり、仕事に大きな支障が出たり、交通事故を起こしたりする危険があるのです。
確かな「前兆」はないのですが、怒りや驚きや笑いなど、強くて突発的な感情が湧き起こった後に発症することが多いそうです。突然、机の上に突っ伏したり、持っていたモノを落としたりして、そのまま睡眠に入ってしまうのです。

そして、ナルコレプシーの人は、金縛りを起こしている率が高いことが知られています。
金縛りと日中の強い眠気の2つの症状は、通常の睡眠不足の人や、睡眠時無呼吸症候群の患者、うつ病の方にも現れます。そこでナルコレプシーの確定診断をするには、特別な検査が必要になります。

睡眠検査室という部屋で行う「ポリソムノグラフィ検査」です。これは、ひと晩眠ってもらい、その間、脳、心臓、呼吸、筋肉、全身などの動きを調べるのです。ナルコレプシーは、CTやMRIでは見つけられないからです。

ナルコレプシーは、命にかかわる病気ではありません。また、根治できる治療法も確立されていません。そこで、実際の治療では、日常生活で支障を起こさないことを目標にします。
軽度であれば、夜間の十分な睡眠や、規則正しい生活、30分程度の昼寝で改善できることがあります。重度になると「モダフィニル」という精神刺激薬を使います。これは覚醒状態を起こす薬で、眠気を抑えることができます。しかし、感情の起伏が大きくなったり、吐き気、頭痛といった副作用があります。
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金縛りを起こしている人は、「過度に恐れず」でも「あなどらず」の態度で臨んでください。心配になった方が受診する科は、精神科や神経科となります。また、睡眠医学に詳しい内科医もいますので、ネットなどで調べて受診してみてください。

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