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しっぽを捨てた猿

一般的に、ヒトが他の霊長類と異なる進化の過程をとったきっかけは二足歩行にあるとされています。後ろ脚だけで歩行することができるようになったおかげで前脚を歩行以外の目的に自由に使うことが可能となりました。また、頭蓋骨が椎骨の真上に位置することによって、より重たい頭部を支えられるようになったため、大脳皮質が飛躍的に発達。そして、その自由になった両手と発達した大脳皮質によって道具や火を操るようになり、やがては現在のテクノロジーを手に入れられるまでに至ったと考えられています。
一方、直立することによって喉の構造の変化がもたらされました。すなわち飲食物と呼吸気が同じところを通るようになったのです。その結果、食べ物を呼吸器に詰めて窒息死したり、誤嚥性肺炎を患う危険性が生じてしまったのです。生活の基本行動が常に死と隣り合わせです。こんな危ないことは他の動物では見られません。
ヒトはこの危険を乗り越えるために呼吸と嚥下の経路を上手に切り替えるために舌、顎、唇、喉頭、咽頭にある筋肉と高度に制御する必要が生じて、そのための脳神経と各筋肉が特異的に発達しました。その結果、発達した脳からの命令で口から呼気を自由自在に操れるようになって、複雑多様な発音が可能となり、言語機能が飛躍的な発達を遂げました。怪我の功名と言えます。
以上のように、直立歩行、手指運動機能の発達、言語機能の獲得という一連の過程がヒトを万物の長たらしめたと考えられています。
しかし、ヒトがこれほどにも地球上を席巻した要因として、私はあと2つの特性を考えます。その一つは繁殖力の高さです。繁殖にとって、10ヶ月強というヒトの長い胎生期間は不利ですが、一年中いつでも発情期という点がそれを補ってあまりあります。ですから、生存の危険の度合いや子育て環境の良し悪しに応じて繁殖行動をコントロールすることができます。この特徴がヒトを地球上の広い地域で、また多様な環境変化に対応して種を拡散・保存できるようにした大きな要因ではないかと考えます。
二つ目はしっぽを失くしたことだと思います。どの動物を見ても尻尾は移動運動時に重要な役割を果たしています。チータの疾走時の姿を見れば運動機能におけるしっぽの大切さが良く分かります。視点は獲物を捉えて上下左右にほとんど振れません。つまり頭の位置が固定されているのです。その頭を中心に躯幹と四肢がしなやかに屈伸します。特に四肢は別の生き物であるかのように大地を蹴り、空中を跳びます。
頭の位置がそれ以外の身体の部分の動きに引きずられないでぶれないことは速く走るために必須条件のようです。ウサイン・ボルトの激走を正面から撮った画像を見ても頭はほとんど動きません。それに比べて私のような運動神経の鈍い者が走ると、上下左右に頭がぶれまくって走行エネルギーを大幅にロスしまいます。
100m競争のような直線走の場合にはボルトとチータの姿にそれほどの差はないように見えます。ところが実際のチータはただ直線を走るわけではありません。命がけで逃げる獲物を追い詰めるには急激な方向転換を要求されます。この方向転換の時に頭がぶれてはその都度スピードダウンしてしまいます。このカーブ走行の際に重要な役割を果たすのがしっぽです。しっぽを方向転換に合わせて左右に振ることによって頭部がぶれることを防いで高速走行を維持できるのです。
つまり、しっぽがないということは生命の維持にかかわる「速く走る」という動物としての最重要機能から考えると、とても大きな損失です。それなのに、ヒトはあえてしっぽを捨てました。それでは、しっぽを捨てたことによって何か速く走ること以上の利点を得たのでしょうか。
一般的には、しっぽがあっては座りにくいとか、セックスの時に邪魔だとか言われますが、私はしっぽを捨てたことによってヒトが得た最大の恩恵は「嘘をつく能力」を身につけたことではないかと考えます。
犬の前に美味しい餌をおいて「待て」を命じます。しつけられた犬はがまん強く待ちます。ちころが、「そんなもの欲しくないよ」とばかりに素知らぬそぶりをしてもしっぽは正直に「早く頂戴よ」と動いてしまいます。
私の大好きな猫ではもっとしっぽがものを言います。猫はかなりのポーカーフェイスですから、表情を観察しても真意を汲み取れないことが少なくありません。しかし、しっぽが彼らの気持ちを明瞭に表現します。嬉しかったり、甘えたい時には尻尾がピンと立ち、ふりふりと揺れます。警戒すべき相手や不快な時には思わずしっぽが山のような形になってしまいます。中枢神経とダイレクトにつながっているしっぽは嘘をつけません。「目は口ほどにものを言う」とされていますが、しっぽは目以上に心情を吐露するのです。
ヒトは言語機能が発達した上にしっぽがないのでとても上手に嘘をつくことができます。おそらく嘘つきはヒトだけが獲得した能力ではないでしょうか。
現代人に突然しっぽが復活したらどうなるでしょう。「決して変なことはしないからちょっとここで休んで行こうよ」とホテルの前で若い娘をくどく中年紳士のスーツの穴から突き出たしっぽの先はピクピクと小さく振れてしまいます。獲物を見つけた時のサインです。
「馬鹿野郎、俺を誰だとおもってんだ、てめえ」と威勢よく啖呵を切っているチンピラのしっぽは丸まって脚の間に隠れています。恐怖で怯えているサインです。
「あなたみたいに素敵な人、初めて。また指名してね」と客を送り出すキャバクラ嬢のスカートから出たしっぽは大きく左右に振られています。不機嫌でイライラしている証拠です。「もう二度と来るな」という本音がばれてしまいます。私はしっぽのあるヒトの社会を想像すると可笑しくてたまりません。

嘘つきは悪いことされていますが、これこそが嘘です。嘘という言葉に抵抗がある方がいらっしゃるでしょうから、嘘とは言わずに「建て前」と言えば納得して頂けるでしょうか。建て前とは嘘に他なりません。
巨大かつ複雑な社会を築いて、その社会の中で生きていくことで繁栄を築いたヒトにとって本音と建前の使い分けは必要不可欠な行為だと思います。もし、ヒトが常に本音だけを言っていたならば、社会はあっという間に分裂・崩壊してしまうからです。社会の最小単位である夫婦や家族の関係も建て前があるからこそ円滑に保たれているのではないでしょうか。
脳の未熟な幼児は嘘をつけません。私たちは脳の発達とともに嘘をつく能力を身につけていきます。そして大人になるといっぱしの嘘つきに成長します。その際のよいお手本はもちろん「嘘をついてはいけない」という建て前で育てる親の言動であることは言うまでもありません。

嘘はヒトが社会を維持していくためになくてはならない行動である一方、最悪のストレッサーでもあります。私たちメンタルクリニックを受診される患者さんのストレスの元の大半が人間関係であり、その人間関係のこじれの大きな原因が本音と建て前とのずれにあります。精神障害の多くが他の動物には見られない理由は人間だけが嘘つきだからと言えるのではないでしょうか。
社会的動物として生きる道を選んだ私たちにとって、嘘による精神的ストレスは逃れられない宿命なのかもしれません。そうであれば、嘘つきの道を選んだ私たちができるだけストレスをためないで生きるためには、上手な「嘘つき」、「嘘つかれ」になることが必要なのではないでしょうか。
つまり、同じ嘘でも自己保身だけで人を傷つけるような嘘ではなく、むしろよい人間関係を維持する嘘をつくように訓練すること。一方、建て前と本音の違いを見極めて、上手に嘘をつかれる能力を身につけることです。それが、しっぽを捨てた猿、ヒトがうまく生きていくために必要なことだと思います。

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