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薬物依存(7)-アルコール-

「木枯らしや ああ木枯らしや 木枯らしや それにつけても 酒の美味さよ」、「花吹雪 ああ花吹雪 花吹雪 それにつけても酒の美味さよ」、「蝉しぐれ ああ蝉しぐれ 蝉しぐれ それにつけても酒の美味さよ」。
松尾芭蕉が仙台、松島の絶景を目にして詠んだとされる句、「松島や ああ松島や 松島や」(実際には江戸時代の狂歌師、田原坊の句)を真似して、何でもよいから「○○や ああ○○や ○○」と詠み、その後ろに「それにつけても酒の美味さよ」と続ければ、まことしやかな歌が出来上がる。これが落語の世界で、和歌を創る奥の手とされている手法です。とてもまっとうな和歌として評価されるわけはありませんが、それなりに「なるほど」と納得できるから面白いではありませんか。
なぜ納得できてしまうのかというと、桜だと言っては酒、月だと言っては酒、寒いと言っては酒、暑いと言っては酒。わが国ののんべいたちは何かと口実を付けては酒を飲みます。その結果、あらゆる生活場面が酒盛りの背景として違和感なく想像できるからです。それほど、わが国では古くから飲酒の習慣が広まっているのです。
飲酒の習慣はなにもわが国に限った事ではありません。現在のイスラム世界を除いて古今東西、飲酒は人種を超えた人類共通の太古からの習慣です。習慣といえば聞こえが良いですが、見方を変えれば立派な「嗜癖」です。したがって、あらゆる薬物依存症の中でアルコール依存症患者が群を抜いて多いのは当然の帰結です。アルコールは依存性薬物の王様と言えます。
ところが、古くからの習慣として根付いているので他の依存薬物と違って皆がアルコールという薬物依存に対して寛容なのです。

以前のコラムに書きましたが、「酒は百薬の長」と言われるように、少量のアルコール摂取は血管平滑筋の緊張を和らげて血行を促進。消化管の運動や分泌を促進して食欲増進。脱抑制によってストレスを解消して人とのコミュニケーションを円滑にしたり寝つきを良くするなど私たちの健康に有利な作用を示します。
ところが、少しでも量を超すと逆に血圧を上昇し、悪玉コレステロールや中性脂肪を増やしたり、悪心・嘔吐をおこします。中枢神経系に対する作用によって、反応時間を延長し、事理弁識能力を低下させて反社会行為を起こさせたり、言語障害、歩行障害、前行性健忘などを起こします。さらに量が増すと意識障害を起こして死に至ります。「気ちがい水」と言われる所以です。
こういった急性中毒症状を起こさない量であっても、毎日のように摂取していると、耐性を生じて身体依存を形成します。もちろん精神依存も生じますので、高率に依存症を作る薬物です。アルコールに依存して長期間にわたってアルコールを摂取していますと慢性中毒になって、コルサコフ症候群、アルコールうつ病などにもなってしまいます。


身体に良い効果が得られる量を治療量、身体に悪い副作用が出現する量を中毒量と言います。中毒量が治療量よりも小さい物質は完全な毒物です。青酸カリのような物質です。こういった毒物は犯罪や戦争の場では活躍しますが、一般の市民生活とは無縁です。
薬物とは治療量が中毒量よりも小さい化学物質のことです。私たちはこういった薬物を治療量より多く中毒量よりも少ない量で利用することによって医療に役立てています。どんな薬物も大量に適用すれば必ず中毒量を超えて身体に悪い効果を与えます。できる限り副作用を出さないで優れた治療効果を得るように処方する薬の種類と量を工夫する、所謂さじ加減が私たち医師の腕の見せ所です。
治療量と中毒量との差をtherapeutic index(治療係数)と言います。私たちが治療にあたって薬を処方する際、このtherapeutic indexが大きい薬ほど使いやすい薬と言えます。先ほど述べましたようにアルコールは適量ならばとても有用な薬なのですが、therapeutic indexがとても小さいのです。さらにtherapeutic indexの幅に個人差がありすぎます。アルコールが治療薬として使われないのはこれが理由です。

わが国の飲酒の実態を見てみましょう。飲酒をする方は7600万人位と考えられます。大半は誘われた時に飲む機会飲酒者か常用したとしてもせいぜい缶ビール1,2缶の晩酌程度といった飲み方です。アルコール換算で1日120g(ビール大瓶6本、ウィスキーボトル半分、日本酒6合)以上を毎日摂取する大量飲酒者はそのうちの3%、230万人程度と考えられます。厚労省はこの大量飲酒者をアルコール依存症とみなして、わが国のアルコール依存者を230万人としています。
しかし、大量に摂取しない依存症はいくらでもありますし、大量に飲酒しても依存症でない方もいますから、この数字は当てになりません。特に日本人は欧米人に比べて遺伝的にアルコールの代謝酵素が少ないのでWHOの示す大量飲酒の基準値は高すぎます。また、女性は体格やホルモンの関係から男性よりも少量で依存症になりやすいので、わが国のアルコール依存者は厚労省の数字の数倍から10倍近くいるのではないかと思います。
しかも違法薬物に指定されていませんから、依存に陥っていると自覚しにくいのです。自覚だけでなく、周囲の人もアルコールに関しては相当な出来事が起こるまでは依存症と考えません。依存症という診断がついた後でもまだ、深刻に受け止められない場合が少なくありません。
アルコール依存症の患者さんが治療を受けて一生懸命続けている断酒が破られる原因の一つが宴席での職場の上司からの次の一言です。「○○君。もう大分長いこと酒を絶てたんだから、そろそろ少しはいいんじゃないか?」
大麻を止めている人に「もうそろそろ少しは吸ってもいいんじゃないか?」と言って大麻を勧める人はいないと思うのですが、アルコールが大麻などよりもはるかに強い毒性、依存性を持った薬物だという認識がないようです。
前回の大麻のコラムにも書きましたが、本当は、アルコールは大麻よりもずっと重大な問題を引き起こしているのです。具体的には飲酒運転による轢き逃げ、暴力行為、器物損壊、性犯罪、転倒による骨折など枚挙に暇がありません。
現在、わがもの顔で幅を利かしている嫌煙運動にさえ幼稚な愚かさを感じている私ですから、過去に大失敗を経験済みの禁酒法を推奨しているわけではありません。ただ、「酒」と名付けられているからといって油断してアルコールと付き合ってはいけないと言っているのです。

「酒は飲んでも飲まれるな」。アルコールが極めて依存性の強い薬物であることを承知の上で、うまく飲まなければなりません。アルコールという薬物を上手に使いこなす能力がない人は一滴も飲まないでおく方が賢明です。

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