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自殺者は減らせるか?―精神科医の限界―

先日、警察庁が平成19年の自殺者数を発表しました。前年より2.9%多い3万3093人で、1978年に統計をとり始めてから、過去最悪であった2003年に次ぎ、2番目に多かったのです。
3万人を上回ったのは10年連続で、このうち60歳以上と30歳代の自殺者は過去最多でした。先進諸国の中で突出した自殺者を減らすべく、国も自殺対策に乗り出したことは過去の私のコラムで書きました。
さて、自殺の原因として注目を浴びているのは「うつ病」です。国もうつ病対策を掲げています。これはこれで意義のあることですが、うつ病という精神障害の治療にだけ力を注げば、本当に自殺者は減るのでしょうか。私はそうは思いません。

精神障害の患者さんの治療は各種薬物療法と精神療法だけでは充分ではありません。その方を取り巻く環境(人的、社会的)をより良い方向へ調整する必要があ ります。この作業においても精神科医が舵取りをしなければならないことは言うまでもありませんが、精神科医だけでできるものではありません。
環境調整は、家族、職場、友人、地域、行政などたくさんの人や組織の協力があって、初めて可能になります。
うつ病をはじめ、抑うつ状態を呈する方の治療も抗うつ薬と精神療法だけでは解決にはなりません。その人を取り巻く環境の中で悪い影響を与えている因子を取 り除いて、その人の本来の力が充分に発揮できるような環境に作り変えてあげなければ、社会復帰は困難ですし、復帰したとしても容易に再発してしまいます。
私は30年以上精神科医療に携わってきましたが、近年薬物療法と精神療法よりも環境を変えることのほうに力を注がなければならない「うつ状態」の患者さん が急増していると感じています。しかも、その環境改善が容易ではなく、社会そのものを変えなければならないと感じる例が増えています。
極端に言えば、山ほど抗うつ薬を処方したって到底治らない。お金をあげるか、まっとうな職を見つけてあげれば、たちどころに改善すると思われる方が少なくありません。職を失い、日常の生活に窮して絶望の淵に立っている人が増えているのです。

小泉政権の頃から、国は景気は回復していると主張してきました。経済動向を示す各種指数から算出した数字の上では、日本経済はきっとバブル崩壊の状態を脱 したのかもしれません。しかし、それは生産拠点を人件費の安い海外に移した大企業の収益が好転したからであって、一般庶民の生活とは大きく乖離した発表で あると感じていた人は私だけではないはずです。
現実は、多くの企業が中国やベトナムなどに工場を移転したために、国内の工場が閉鎖され、多くの労働者が職を失いました。また、下請けの零細企業も倒産し て、そこで働いていた労働者も失職しました。そういう人たちが必死の思いで仕事を探しても正規雇用の仕事にありつけることはめったにありません。なんとか たどり着く先は派遣社員です。また、30歳以上の人たちは派遣の仕事にさえありつくことが困難です。
派遣社員がいかに低賃金で過酷な仕事を強いられて、保障が不安定であるかは、近頃やっと廃業に追い込まれたグッドウィルにまつわる多くの報道で皆の知ると ころとなりました。しかし、極悪な人材派遣会社は折口のグッドウィルだけではありません。ほとんどの人材派遣会社は似たりよったりです。
人材派遣業というもの自体が、自分は働かず人間を右から左へと動かすだけで金をもうけるヤクザな商売です。つきつめて言えば「人身売買」で金儲けする昔の女衒 となんら変わりはないのです。
因みに、人身売買のヤクザな稼業が人材派遣業などと名のって羽振りを利かせるようになったのも小泉の節操のない規制緩和の賜物です。
このように搾取されて低賃金で働く労働者たちを餌食にしてさらに金を搾り取る輩が、これも国の後押しで急成長しました。キャッシングなどというカタカナ造語でごまかした高利貸し、すなわちサラ金です。
借りる人の自己責任と言えばその通りですが、低所得で将来に希望が持てない人をさまざまな媒体を通じてあの手この手で誘惑すれば、ついついローンやキャッシングに手を出してしまうことも納得できます。
こうなると、不安定で少ない収入の中から高利の返済をしなければならなくなります。地獄の始まりです。若い年齢層の自殺にはこういった背景が深く関与していると思います。
最近、インターネットの掲示板で、秋葉原の無差別殺人の容疑者、加藤智大を絶賛する書き込みが増えていると聞きます。彼を小泉が作り出した格差社会の負け組みのヒーローとして讃えているのです。
常識的に考えれば唾棄すべき極悪な犯罪者を英雄視する若者がこれほど多くいるということはきわめて不気味な現象です。しかし、健全で常識的な感覚を持ち合 わせていない精神的に異常な若者が多いと考えるよりも、そのような考えに至らざるを得ないほど不遇で追い込まれた若者が多数存在すると解釈する必要がある のではないでしょうか。不健全な社会が人の心を病ませているのです。
高齢者を取り巻く環境は若者以上に劣悪です。企業の利益追求の目的で早期退職を強いられ、その後得られる年金は雀の涙。年金収入だけでその後待ち受けると思われる病気対する医療費や介護費用に備えた上で、なおかつ文化的な生活をできる人なんてほとんどいません。
さらに鞭打つように国は小泉以来、「聖域なき財政再建」と称して社会保障費をどんどん削ってきました。60歳以上の一般庶民に希望を持てといっても不可能なのが現実です。

小泉、竹中は競争社会こそ努力したものが報われる、健全で活気のある社会を生み出すと言っていました。現在の多くの日本人の日々の生活、精神的な健康状態を直視して、彼らが言っていたことが正しいといえるでしょうか。
今でも一部の富裕層は存在します。いわゆる「勝ち組」です。この「勝ち組」の中には人の何倍も努力している人がいることは確かです。しかし、先ほど述べた 人身売買や高利貸しに代表されるように、労せずピンはねをすることによって人々から金を搾取する、こずる賢い輩も少なくありません。
努力しても報われず、「負け組」から這い出せない人の数は確実に増えています。多くの国民は今日の生活に困り、明日にまったく希望が持てないのです。自殺者の異常な数は現在の我が国の国民のおかれている現実を正直に反映しているのでないでしょうか。
このように過酷な生活を強いられている国民にさらなる試練が追い討ちをかけてきました。数字上でもごまかせなくなった経済不況、原油価格の高騰、食糧価格 の高騰です。それにもかかわらず、政府は「骨太の政策を堅持する」といって、社会保障費の削減方針を変えようとはしません。これまで社会を支えてきた老人 に対しては後期高齢者医療制度を強引に発進。職を失って最低限の生活をしている生活保護者に対しては保護費の減額。
減ることはあっても増える可能性のない収入なのに、生きていくために最低限必要な支出は増えていきます。
今の状況は精神障害でなくても、生きていくことが困難な人たちをますます増やしていきます。このままでは自殺者はさらに増加することは確実です。精神科医の尻を叩いて自殺者を減らせと言っても不可能なのです。
本当の精神障害の症状に基く自殺者数は時代によって大きく変わるものではありません。ですから、健全で、明日に希望がもてる社会になれば、自殺者数は自然と減少すると思います。

国は異常な数の自殺者を精神障害によるものとしてごまかさず、不健全な社会が生み出した自殺者が少なくないことを素直に認めるべきです。そして真の自殺者対策は精神障害者対策ではなく、健全な国家社会運営にこそあると認識すべきです。
国家の主体である国民を死に追いやる状態を看過しておくことは、日本国そのものが自殺への道をひた走ることです。国民なくして国家はないのですから。

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