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統合失調症あれこれ(4)―思考障害2(思考体験様式の障害)―

統合失調症に見られる思考障害のうち、思考過程の障害については先日お話しました。今回は「思考体験様式の障害」ついて説明します。
思考体験様式といわれてもほとんどの方がぴんとこないと思います。体験様式なんて言葉は通常使うことはありませんから当然のことだと思います。では思考体験様式とは一体どんなことを指しているのでしょうか。

思考にかぎらず私たちが何らかの行動(外的であるか内的であるかを問わない)をする時には、自分自身で行っているという主体感、自己所属感あるいは能動感 をともないます。また、ひとつの観念だけが長時間頭の中にとどまっていることはありません。時々刻々と流れていくものです。この感覚が体験様式です。
したがって、この体験様式が障害されると頭の中に浮かぶ観念を自分自身で操作できなくなり、「自分がやっている」という感じが失われてきます。思考という内的な行動に関する主体感、自己所属感、能動感が失われることを「思考の体験様式の障害」と言います。

以下に主な思考体験様式の障害を簡単に説明します。
1・優価観念(fixed idea):ある観念や観念群が常に意識を占領してなかなか消失しない状態です。観念の内容は奇異なものではなく、ごくありうる内容ですが、通常の観念よりも長時間持続します。後で述べる強迫観念と違って強迫性はありません。何らかの原因で気分の高揚したときに健常者にも現れます。
2・強迫観念(obsessive idea):無意味な観 念、現実に関係のない観念がひとりでに絶えず頭に浮かんで、その観念を払いのけようとしても払いのけることができない状態をいいます。すなわち、ある観念 が自分の意志に対抗して強迫的に持続する状態です。本人はその観念が無意味で不合理であることを理解しているのに、その観念から逃れようとしても逃れられ ないのでひどく不快で苦痛です。内容は疑い、せんさく、確認、計算などです。
強迫性障害の主症状ですが、うつ病においてもしばしば認められます。
3・恐怖症(phobia):これも強迫観念の一種とも言え ますが、強迫観念の内容がとるに足らないつまらない内容であるのに対して、恐怖症の場合はその観念内容そのものが不安や恐怖を与える性質を持っているため に、本人にとっては恐怖の強迫と観念の強迫とのダブルパンチになってしまいます。恐怖の内容は多岐に渡ります。赤面恐怖、対人恐怖、高所恐怖、閉所恐怖、 広場恐怖、疾病恐怖、不潔恐怖、尖端恐怖などあげていったらきりがありません。各種不安性障害のほかにうつ病時にも見られます。
4・思考の離人体験(人格消失感)(depersonalisation): 自分の思考が自分の考えであるという感じがなくなることです。思考能力はまったく衰えていませんから、正常に考えることができます。しかし、「ただ機械的 に考えている」、「うわの空で考えている」、「以前と違って自分が考えているという充足感がない」と表現して、苦しみ悩みます。解離性障害、不安性障害、 うつ病、統合失調症で見られます。
5・作為思考(英made thought、独Gemachtes Denken): 自分の考えが自分に所属するという感じがなくなるだけでなく、自分以外の力によって作られたり、与えられていると感じる状態です。「考えさせられる」、 「考えが外から入ってくる」、「考えが吹き込まれる(思考吹入)」、「考えを外からあやつられる」などと表現します。自己所属感が失われるだけではなく、 外部から影響されるという被動感、被影響感がでてきます。統合失調症に特徴的です。自分に「考えさせる」力としては、他人が電波などを使って操作している と解釈する場合も神のような力と解釈する場合もあります。
6・思考奪取(英withdrawal of thought、独Gedankenentzug): 考えが外から奪い取られる、盗まれる、外に漏れてしまうように体験する状態です。思考過程の障害のコラムで、急に思考が停止する「思考阻害」についてお話 しましたが、この状態のことを患者さんに尋ねると「考えが引き抜かれた」とか「考えが盗まれた」とか答える場合が多いです。つまり思路障害の思考阻害と思 考体験様式の障害である思考奪取はリンクしていることが多いのです。当然ながらこれも統合失調症に特徴的な症状です。
7・思考聴取(thought-hearing):「自分の 考えていることが他人によって話されるのが聴こえてくる」という複雑な現象。思考奪取と幻聴が組み合わさった症状のようですが、自己の意識化的思考の一部 が客観化されることによって生じると考えられており、広い意味で思考の体験様式の異常の範疇で説明されています。統合失調症に特異的な症状であることは言 うまでもありません。

5のような体験は思考に限らず、感情や行為の領域にもおよびます。こういった現象をまとめて作為体験(Gemachtes Erlebnis)と呼ばれます。また、「考えが入ってくる」とか「考えがささやかれる」という体験はもはや幻覚に近い体験となります。つまり、作為体験 は幻覚とが本質的にきわめて近縁のものであることを示唆していると言えましょう。
統合失調症に見られる思考体験様式の障害は思考機能そのもの異常というよりは自己と他者とを区別して、自分を自分と意識する自我機能の異常と言ってよいのかもしれません。
このように統合失調症の症状を詳細に考察すると知覚、思考、感情、行動、自我といった精神機能の下位機能の分類に的確に当てはめられない症状が多々見られます。なぜそうなるのでしょうか。
その理由はさまざまな脳のシステムの分類はあくまでも人間が便宜的に考え出したものであり、神様はそんな設計図で私たちを創りだしたわけではないからです。
実際の脳の機能はレゴのブロックのような組み合わせでできているわけではありません。何十億もの神経細胞の間で情報をやりとりすることによって生まれる有機的でダイナミックなシステムで行われているのです。
ペンフィールドの描いた脳の中の小人の図(ホムンクルス)があまりにも有名になったために医師たちでさえ、大脳の機能が本当にモザイクの寄せ集めだと考えている方が少なくありません。
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図1ペンフィールドとボルドレイが描いたホムンクルス。体の大きさは運動野の相当領域の広さに対応して大きさを変えてある。(Penfield and Boldrey, 1937より改変)







 


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図2ヒトの一次運動野における体部位の地図。右が外側、左が内側に対応する。中心溝前方にある一次運動野と中心溝の後方の一次体性感覚野はほぼ同じ体部位局在を持つ(Rasmussen and Penfield,1947より改変)






実際にペンフィールドの脳領野図は概ね間違っていないと思います。なぜならばペンフィールドの研究と同じように、粗大な障害者の症状や破壊実験からは再現性のある事実が確かめられています。
こういった研究分野を神経心理学といいます。もっともよく知られている症状は「失語症(Aphasia)」です。傷害されている部位に対応して言語や文字 を了解することはできないけれど自分からはしゃべることができる感覚性失語症(Wernicke失語、sensory aphasia)、人のしゃべる言葉や文字は理解できるのに自分ではしゃべることができない運動性失語症(Broca失語、expressive aphasia)などに別けることができることも知られています。
このほかにも「高次脳機能障害」のコラムでお話した、失認(Agnosia)、失行(Aprexia)などの症状と脳の局所的な傷害との間の高い相関性が確かめられていいます。
その場所が傷害されているとある機能に異常が起こるということは、その部位がその機能にきわめて重要な役割を果たしていることは間違いありません。しか し、論理学の基本、「逆は必ずしも真ならず」です。正常な機能はその部位の機能だけで事足りるとは言えないのです。私たちが通常の生活で言語を用いて思考 する際にはウェルニッケ中枢やブローカ中枢といったいわゆる言語中枢だけの機能だけで行われているはずがありません。健康で円滑な言語機能にはいわゆる言 語中枢以外の領域の脳の活発な関与がなければならないはずです。

統合失調症に関する研究では前頭前野や上側頭回などが注目を浴びて多くの研究がなされて、かなり有力な実験成果が得られてきています。しかし、私は統合失調症の病理はこういった限られた領域だけで説明がつくとは考えていません。
なぜならば、統合失調症といわれる病気は実際にはさまざまなタイプに分けることができます。つまり、単一の疾患とは考えられません。正確に言えば「統合失調症候群」であると考えます。
ですから、認知機能の異常が著名な統合失調症では前頭前野が特に傷害されているでしょうし、幻聴がいつまでも消失しない統合失調症では特に上側頭回が傷害されているのはないでしょうか。
統合失調症候群というものの本体を知るためには、どこが傷害されているかということを追求するよりも、どのように傷害されているかということを中心にアプローチしなければならないと考えます。
統合失調症は名前のとおり脳のあらゆる機能系の統合が失調された状態だと思います。ですから、患者さんが表現するさまざまな異常現象を幻覚だとか妄想だと か自我障害だとか分類すること自体、本当はあまり意味のないことなのかもしれません。正常な状態では、それぞれの機能として整理できるはずのサブシステム が混乱して境界が不明瞭になることこそが統合失調症の症状だとかんがえれば納得がいきます。
私は二十年近く前に脳科学的研究の現場から離れて、毎日臨床の場で患者さんと接するだけの立場になりました。精神科の臨床医としての年輪を重ねるにつれて今述べたような印象が強まっています。

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