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保続症(perseveration)

「頭の中の消しゴム」、「明日の記憶」など若年性アルツハイマー病を題材にした映画やテレビドラマを通して、認知症が高齢者だけの病気ではなく、働き盛りの壮年期の人にも起こりうる可能性があるということが理解されてきました。
認知症は世界中の研究者の努力によって、いろいろな事実が判明しつつありますが、根本的な解決に結びつく決定的な治療法はまだ見つかっていません。進行を遅らせる薬が1種類だけ使われているのが現状です。
不幸にして若年性アルツハイマー病にかかってしまった方は、残念ながら社会の第一線からは引退を余儀なくされてしまいます。
さて、今年の参議院選挙は「亥年のジンクス」 をくつがえして、多くの有権者が参加した選挙でした。
国民の生活に密着した年金の問題や、国家の根幹である憲法改正といった重要な課題が俎上にのぼっていたこともありましょうが、政治資金の不明瞭な使われ方 が表面化して、国民が無関心でいられなくなったことも大きな理由だったと思います。結果は現政権与党の歴史的な大敗に終りました。
私は、普段から政治には関心が高いほうですが、ここ数年、以前にまして高い関心を持つようになりました。
その理由は、前政権の頃から医療・福祉がどんどんと切り捨てられて、障害者の方や、高齢者、病気のために働けずに生活保護を受けている方など、いわゆる「弱者」に対して過酷な政策が推し進められていくのを医療の現場で実感しているからです。
さすがに、言葉でははっきりと言わないものの、「弱いもの、働く能力が低くなったものは早く死になさい」という政策です。格差社会の助長であり、弱いものいじめです。
こういった理由で、国会中継は時間の許すかぎり観ました。また、新聞やテレビ報道を通じて政治家の発言を注意深く聴くことにしていました。そこで、気付い たことは、国家の行政をあずかる大臣達の答弁が、質問の本質とずれていることです。さらに、何を聞かれてもその的外れな答弁をひたすらくりかえすことで す。
例えば、政治資金の使途が不明瞭なことを指摘されて就任2ヶ月で更迭されたA農林水産大臣の「法律にのっとり適正に処理している」。また、歴史的な大敗後 の総理大臣の発言、「正すべきことは正し・・・・・」、「改革の責任を果たすことが私に課せられた使命と決意している」です。
まあこの二人に限らず、最近の政治家の国会答弁はみな似たりよったりです。質問の核心とはずれたことをオウムのように繰り返して時間切れを待っているよう です。国会でも記者会見でも永遠にやっているわけにはいかないので、制限時間があるのは仕方ないのでしょうが、これでは本来の質疑応答の意味はまったくあ りません。
今までは、時間を消費してタイムアップに持ち込む作戦でやっているのだとばかり思って、はらわたを煮えくり返らせていましたが、もしかすると、そんな悪意でやっているのではなく、大臣たちは、みなさん病気にかかっているのじゃないかと考えるようになりました。
一度口にしたことばが、その後は質問の内容と関係なく繰りかえされる症状を保続症(perseveration)と言います。認知症によくみられる症状です。
認知症の患者さんに対して最初に、「お歳はいくつですか?」と尋ねて、それに対して「78歳です」と答えると、その後「お住まいは?」、「お子さんは何人ですか?」と違う質問をしても、「78歳」としか答えられないことがよくあります。これが保続症です。
前頭葉を中心とした脳の障害でおこるとされています。そして、保続症はことばだけではなく、行動にも表れますから、同じ失敗を際限なく繰り返します。脳の非可逆的な変化 に起因している症状ですから、今後も改善の見込みがありません。
そうではなく、相手の質問の意味がよく理解できないのだとすればこれまた、失語症か全般的な知的な機能の低下が考えられます。
現総理大臣も、お辞めになったA農水省も壮年期の政治家です。その原因が保続症であれ、失語症であれ、ああいう答弁が議員や記者の質問に対して真剣に答えた結果であるとすれば、若年性のアルツハイマー病を疑わざるを得ません。
そうではなく、わざと質問の核心に外れた答えをオウムのように繰り返して、粘り勝ちを意図しているとすれば、国民を愚弄しているとしか言えません。
いずれにせよ、私たち国民の生活や将来を任せるにたる資質が欠落しています。一刻も早くお辞めになっていただかなければならないでしょう。そして、病気の 症状であるならば、療養に専念されることをお奨めします。完全な治癒は期待できませんが、進行を遅らせることはできます。
これからは閣僚の人選に当たって、金銭にまつわる不祥事がないかどうか、厳重な「身体検査」をするとのことですが、その身体検査の際にはぜひとも知能検査もあわせて行っていただきたいものです。
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1 亥の干支の年に行われる参議院選挙は投票率が非常に低いという戦後参議院議員選挙に関するこれまでの実績をふまえたジンクス。
2 非可逆的な変化とは、元通りに回復する可能性のない病態を言います。これに対して、元通りに回復する可能性のある病態は可逆的変化と言います。