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「頑張ろう」と意識しないでいきましょう

スポーツの世界で日本の選手は、普段はすばらし記録を出しているのに、オリンピックのような大舞台になると、本来の実力を発揮できずに、不本意な成績で終ることが少なくありません。
運のなさや、当日の体調不良などいろいろな原因が考えられますが、ある友人から「日本人の『頑張れ』という応援がよくないんだ」、「欧米人はまったく逆で、『 Take it easy !』というような声をかけるんだよ」 と言われて、なるほどと思いました。
長年にわたって血のにじむような練習をかさねて、いくつもの予選を勝ち抜いて、晴れの舞台のスタートラインに立っている選手は、八百長の力士以外、他人からそんなこと言われなくたって、自分自身が一番頑張りたいと思っています。
そこへもってきてさらに周囲から「頑張れ」の嵐。適度な緊張が過度の緊張に変わってしまいます。そうなると、力をいれずにリラックスしていなければならない部分にまで余計な力がはいって、効率のよいスムーズな動きができなくなってしまいます。
私は「頑張る」ということばにはどうしても、「なんとしても」、「今日しかない」「これを逃したら今までの苦労は水の泡だぞ」、「実力以上に」、「無理をしても」といったニュアンスがつきまとうように感じてしまいます。
広辞苑で「頑張る」を引くと、「どこまでも忍耐して努力する『成功するまで努力する』」書いてあります。ですから、頑張れということばは、遠く、高い目標に向かって、苦しい練習に励んでいる最中の選手に対しての応援のことばであるように思います。
激しいトレーニングへの忍耐をへて、最後の本番に臨んでいる選手にはむしろ、欧米人のように「普段通りに」、「リラックスして」、「気楽に」といったことばをかけてあげるほうがよいのではないでしょうか。
うつ病の患者さんに「頑張れ」ということばが禁句であることは、だいぶ周知されました。なぜ、うつ病の患者さんに「頑張って」と言ってはいけないのかは、先ほど書いたスポーツ選手の例を考えればすぐにお分かりになると思います。
うつ病の患者さんはスランプに陥ったスポーツ選手と一緒です。ただ、その不調がある特定の競技種目ではなく、職場や家庭といった生活全般にわたるフィールドだということです。
スランプに陥った選手は、なんとかそこから脱出しようと試行錯誤をしながら頑張っています。それでもうまくいかないのがスランプです。うつ病の患者さんも同じように、それぞれ、なんとか前の元気な時の自分に戻りたいと頑張っているのです。
そこへさらに追い討ちをかけるように「頑張れ」と言われたらどうでしょう。「自分の今までの頑張りは、周囲からまったく評価されていないんだ」、「やはり、自分の頑張りが足りなかったんだ」と自分をいっそう過小評価したり、自分を責めるようになってしまいます。
それでは今のところ、うつ病にはなっていない健康な人は「頑張る」べきでしょうか。
たしかに、世の中にはどうしようもない怠け者もいるように思います。そういう人を見ると思わずお尻を蹴飛ばして、「もうちょっと頑張らんかい!」と発破をかけたくなります。しかし、そういう人はごく少数です、多くの人はその人なりに一生懸命生きています。
ですから、私は原則として、「頑張る」ことはお奨めしません。なぜならば、「どこまでも忍耐して努力している」と自覚しながら生活していったら、いつか必ず心身の健康を損なうからです。
同じことをやっていても、興味をもって、やっていることに楽しみを感じながら行動している時には、そうとうハードな内容やスケジュールでも「忍耐しながら努力している」という意識は生まれてこないはずです。
意にそぐわない、自分に合わないことを忍耐して長期間努力することは、自分に無理を強いることです。無理が続けば、必ずどこかにつけがまわってきます。
なるべく、「頑張る」という意識を持たずに、楽しく、面白おかしく、努力していくことが、長続きするし、成果も大きいのではないでしょうか。
しかし、どんなことも、ある程度の基礎的な力がなければやっていることの楽しみを理解することすらできません。したがって、何事も始めた当初は忍耐して頑張る期間もある程度は必要です。
たとえば、小学校で習う、漢字の読みや書き取り、算数の加減乗除などの基礎中の基礎は、楽しくなかろうがともかく覚えなければなりません。勉強というよりは、将来勉強するための自分頭の中の道具を作り、思考回路を組み立てる設計図の描き方を教わっている作業なのです。
字が読めなければ、将来深い感銘を受ける書物も読めません。九九を知らなければ、数学のもつ奥深い神秘的な哲学の楽しさも味合うことができません。
このような、楽しさを味わえるための基礎的努力は頑張らなければなりませんが、その後そこで身につけた、道具や考えるという方法をつかって、何かに向かって継続的な努力をする時は、絶対に楽しくなければだめです。
他人から見たら、なんであいつあんなに頑張っているんだろうと見えるのに、当の本人は頑張っているなんて意識はなく、ただただ楽しくて楽しくて、寝食を忘れて没頭しているというのが最高の生き方ではないでしょうか。

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