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睡眠障害(その3)不眠

不眠とはなかなか寝付けない、早く目が覚めてしまってその後まんじりともしないで朝を迎えてしまう、睡眠の最中に何度も目が覚める、眠りが浅い、夢ばかり 見ている、朝起きた時にぐっすりと眠った満足感が得られない等々、睡眠の量や質を本人が不満足で困っている状態です。ですから、不眠の原因は実にさまざま で、本人が困っているだけで、医学的に見たらなんら心配の要らない場合もあれば、すぐに治療をしたほうがよい場合もあります。

夜中に大地震が起きた際には直ちに覚醒して、日ごろ訓練した避難行動をとらなければなりません。このような緊 急事態であっても目を覚ますことなく、ぐっすりと眠っていたら大変なことです。しかし、実際にはそのようなことはありません。自分を取り巻く環境に非常事 態を告げる知覚を脳が感じとった場合には睡眠は直ちに中断されて覚醒状態になります。

以前にもお話しましたように、睡眠は死に似た状態ではなく、脳の活発な活動状態です。緊急事態を知覚したにも 係わらずに起きてこない人は眠っているのではなく、病的な意識障害を起こしている人です。意識障害とは脳の活動が低下した状態で死へと向かっていく下り坂 の状態です。睡眠とは似て非、まったく異なるものです。

夜中の大地震はそんなに頻繁に遭遇するものではありませんが、しかしリラックスした状態を妨げる環境であれば 快適な睡眠を得ることができません。地震や工事などで発生する振動。消防車や救急車のサイレンなどの大きな音。先日、判決を受けた迷惑おばさんの発するよ うな騒音を受けたことには眠れっこありません。異常な室温や急激な温度変化。腹痛や頭痛といった痛みの刺激。極度の空腹感や満腹感も寝入るためには妨げに なります。もう少しデリケートな環境上の問題としてはいわゆる「床が変わる」というものもあります。旅行や入院などで慣れない部屋で、使い慣れない寝具を 使用すると神経質な人だと眠れなくなることがあります。

こういった、環境が原因で充分な睡眠をとることができない場合にも睡眠導入薬を服用するという方法も一時的に は有効ですが、根本的解決は不眠の原因となっている環境を改善することです。すなわち、地震は別として振動の原因や騒音の除去あるいは防音対策。寝具を工 夫したり、エアコンで適度な室温を保つ。痛みを引き起こす病気を一刻も速く治療する。適切な時刻に適切な量の夕食を摂る。こういった対策でぐっすりと眠る ことができるようになります。床変わり対策はちょっと難しいかもしれませんが、普通は数日で新しい睡眠環境に順応しますから、慌てないでも大丈夫です。旅 行先にMy枕を持参する方もいらっしゃいますが、ちょっと周囲の笑いをとることは覚悟してください。

不眠を訴える方の中に時々見かけるケースとして昼寝のとり過ぎがあります。「ここ何ヶ月も毎晩眠れない」と おっしゃるのですが、よくよく聞いてみると夜、眠れないからといって昼間たっぷりとお昼寝をしていらっしゃるのです。身体が要求する一日の睡眠は限度があ ります。昼間に充分な睡眠をとってしまえば、身体としては夜眠る必要がありませんから、当然眠くなりません。ところが、御本人は夜眠れないからといってま た次の日もたっぷりとお昼寝をする。この繰り返しです。

対策としては夜ぐっすり眠るかお昼寝を止めるかですが、下手をすると「鶏が先か卵が先か」論争になってしまいます。しかし、こういう場合はお昼寝をやめるべきでしょう。なぜならば、努力して眠ることはできませんが、起きていることは頑張ればできるからです。

努力して不眠になる方もいらっしゃいます。「充分に眠らないと翌日に差し支える」、「不眠は健康に差し障る」 「なんとしても速く眠らなければならない」と頑張ると、かえって寝付けなくなってしまいます。人の入眠(寝付くこと)は横になる以外何もしないという状況 下で円滑に作動するようにできています。「眠ろう」と努力をした瞬間に眠りにくい状況を作り出してしまうのです。

まだ何も偏見やこだわりを持たずに生きていた幼い頃を想いだしてください。親から「いつまでテレビ観てるの。 早く寝なさい」と叱られた経験をお持ちの方は少なくないと思います。眠らずにいつまでも起きて、遊んでいたい。明日のことなんて考えてもいませんでした。 自分の身体があるいは親が眠れと要求してくるのでいやいや眠ったのです。あの頃が健康な心理だったのです。

この不健康な心理状態に由来する不眠は現代の健康ブームに通ずるように思います。テレビの健康関連番組で「こ れが身体に良い」と放送されると、名指しされた食品、目の玉が飛び出るような値段のサプリメントと称する化学物質、得体の知れない動植物からの抽出物質な どが飛ぶように売れます。テレビは次々にテーマを変えますから、記憶力のよい方は次から次へと購入する健康食品が増え、やがて食事よりも大量の物質を飲ま ねばならなくなります。

さすがに一時代スターの座を獲得した紅茶茸の御尊顔はついぞお見かけしなくなりましたが。自分の健康への過度の拘りはそれ自体とても不健康な心理状態なのです。

幼い頃からきちんとした食育を受けた人間の身体はちゃんとそのときに必要な栄養素を食欲を通して教えてくれるものです。身体が発するこの要求を素直に感じとっていればバランスの取れた食事ができると思うのですが、いかがなものでしょう。