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目的と手段の取り違え

精神科領域で、従来型の診断法がアメリカ生まれの操作型診断法に取って代わられてから久しい。
従来の診断では、目の前に現れている症状に加えて、時間経過に伴う症状の変化、患者さんの元々の性格、生まれ育った環境やこれまでの生き方、発症のきっかけとなった誘因の有無や、その誘因と現在の症状との心理学的な関係性などを総合的に判断した。
これに対して操作型診断では、現在認められる症状を評価項目が幾つ存在するかを評価するだけで診断する。おかげで診断は極めて安直になった。患者さん本人に「はい」、「いいえ」で回答させるチェックシートの点数だけで診断している医療機関さえあるくらいだ。
操作型の診断の登場は言語の壁を超えて共通の診断を可能にした。以前の診断では国や文化の違いによって同じ病態の人に異なる診断名がつくことがあった。また、高度な精神医学を習熟していない、看護職、介護職、さらには一般の素人さんでもそれなりに精神障害の診断ができるようになった。
現在では一般の人が洋服のブランド名と同じくらいの気楽さで「うつ」などと口にするようになり、その結果、巷にうつ病と称する人が溢れている。
バカチョン診断法の導入は精神医学の敷居を低くして、誰もが共通の言葉で病気を語り合うことをできるようにした。だがそれは精神医学の向上ではなく、精神科診断技術の低下をもたらしたと思う。「悪貨は良貨を駆逐する」だ。
この辺りの批判については2011年のコラム「精神科診断の混乱が生んだ現代型うつ病」で詳しく述べた。

さて、操作型診断法によって消滅してしまった精神障害の一つに「神経症」がある。だが、この神経症は現在も厳として存在する。
神経症とは簡単に言うと「心理的原因によって生じる心身の機能障害」である。したがって、目の前に見える症状そのものよりも、その症状を生み出す性格背景や心理規制の方が診断にとっても治療にとっても重要になる。
神経症が形作られていく過程にはいくつかの心理規制が働くが、その中の一つに「目的と手段の取り違え」がある。
心気神経症を例にとってみよう。心気神経症とは自分が病気に罹っているのではないかという不安に取りつかれて、自分の健康に対して過度に敏感になり、一日の大半を健康に関することに費やし、それでも不安で不安でいたたまれなくなっている病態。
ここで考えてみよう、健康であることが我々の人生の目的だろうか。そうではないはずだ、幸せで充実した人生を送ることが目的ではないだろうか。この目的を果たすためには健康であることが重要な要件となる。だが、健康であることはあくまで幸せな日々を送るという目的のための一つの条件、手段に過ぎない。
ところが、心気神経症になってしまった人はこの目的と、目的を達するための手段、条件を取り違えてしまう。そしていつの間にか健康であることを目的と勘違いして、健康のことにばかり捉われて、毎日不安で苦しい日々を送ることになってしまう。
つまり手段が目的化されてしまうことによって、肝心の目的とは程遠い生活を送ることになる。
この取り違えを森田療法では「手段の自己目的化」と呼ぶ。たとえば、美味しい料理を作るためには調理道具の手入れが必要だが、ここで手段が自己目的化されてしまうと包丁を研ぐことばかりに熱中して肝心の料理に取り掛かれなくなる。
この取り違えは誰でも陥る危険がある。仕事に完璧を期するあまり、準備段階に捉われてしまって、期日までに仕事をすることができなくなる。
昼間のパフォーマンスを上げるためには十分な睡眠が必要と考えるあまり、眠ることばかりに夢中になって、昼間も今晩ちゃんと眠れるだろうかと考えて、仕事に集中できない。また、前の晩よく眠れずに頭がすっきりしないからと言って仕事を休んでしまう。
いずれの例も本末転倒で滑稽な話だが、当の御本人はこの滑稽さを自覚できない。他人の同じ状態を見ると、「なんておかしなことをしているのだ」と大笑いするのだが、いざ自分のこととなると大真面目に自己目的化した行動に走ってしまう。

ところで、私がコラムで常々批判している現在の拝金主義も精神病理学的観点から見ると、この手段の自己目的化に他ならない。
人生を楽しむという目的のためには健康であることのほかにある程度のお金があることも必要な要素だ。確かに、金を稼ぐという行為は幸せな人生と言う目的のための重要な手段なのだ。
ところが、アメリカ型資本主義の蔓延によって、多くの人がお金を稼ぐことを目的として取り違えてしまっている。手段であるべきお金を稼ぐことが自己目的化されてしまうことによって、満たされることのない餓鬼道に陥って、本来の目的である幸せを感じることができない。
我々は皆、「金儲け神経症」に冒されているのではないだろうか。

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