医療法人社団求林会 クリニック西川 のブログ

公式情報
休日診療対応
専門医在籍
ブログ公開中

春眠暁を覚えず

「春眠暁を覚えず、処々啼鳥を聞く、夜来風雨の声、花落つることを知りぬ多少ぞ」。唐の時代の詩人、孟浩然の五言絶句「春暁」である。春の眠りは快くて、夜明けも知らずにうつらうつらしていると、あちこちで鳥のさえずる声が聞こえる。昨夜激しい雨風の音がしたが、おそらく花が沢山散ってしまったことだろう。
 この詩を知らなくても、頭の「春眠暁を覚えず」の一節を知らない人はいないだろう。あまりにも有名な慣用句だ。
 孟浩然の指摘する通り、春はよく眠れる。普段不眠で困っている人にはとてもありがたい季節だ。一方、昼間の眠気で困っていた人はなお一層眠気と闘わなければならない。
 ではなぜ、春は眠りやすいのだろう。一つの説としては気温の上昇があげられる。ヒトは生きていくために体温を一定に保たなければならない恒温動物である。この恒温機能は発熱と保温のバランスよってなされる。
このうち保温機能の主役は、自律神経系を介した血管の収縮・拡張だ。寒くなると交感神経系が優位になり血管を収縮させる。すると寒い外界にさらされる血液の量が減るために、熱の放散量が減少する。
 一方暑くなると、交感神経系の活動レベルが下がって副交感神経系優位になる。すると血管が拡張して身体の中の熱の放散量が増加する。さらには血管が特殊に変化した汗腺から、血液の中の液槳成分を体外に汗として分泌する。この汗が蒸発する際に気化熱が奪われることによって、より積極的に体温を下げる。
 自律神経系は中枢においては精神的な緊張度のコントロールに関与する。緊張度が増すと交感神経系が優位になり、リラックスすると副交感神経系が優位になる。
 さてここで春眠だが、春になって暖かくなると体温を下げようとして副交感神経優位となり、結果リラックスする。また、熱放散のために皮膚表面の血液量が増え、その分脳血流量が減る。気温が高くなるとこの両方のメカニズムによって眠くなるという解釈だ。

 もう一つの原因として考えられているものがメラトニンという脳内ホルモンである。メラトニンは睡眠物質と呼ばれ、この分泌量が増えると脈拍、血圧、体温を下げて睡眠を誘発する。
 メラトニンは視覚伝導系の一部にある松果体で分泌される。一日中一定の量が分泌されるのではなく、朝、太陽の光が目に入って約15時間後に分泌を初め光の量が減るに従って分泌量が増加する。つまり夕方から夜になるにつれてメラトニンの量が増えて午前2時頃に最大値となる。こうして睡眠・覚醒のリズムを司る体内時計の機能を果たしていると考えられている。
 メラトニンの分泌量を一年を通してみると、日照時間の短い冬は分泌量が多く、日照時間の長い夏は少なくなるサイクルを示す。春は徐々に日照時間が長くなるのだが、メラトニンの減少速度がそれに追いつかない。つまり、日照時間に比べてメラトニンが脳内に溜まりすぎるので眠たくなるという説明である。

 春の眠気についての説明はおおむね以上のようなものが多い。しかし、私はそう簡単に納得できない。なぜならば、今説明されたこととまったく正反対のメカニズムが働く秋も春と同様に眠たい季節だからだ。秋もまた、不眠者にとっては好環境、過眠者にとっては辛い季節である。「秋眠暁を覚えず」だ。
 同じように眠くなるのだが、秋は交感神経が優位になり、皮膚表面の血液量が減少する。日照時間も短くなるのでメラトニンの分泌量が多くなる。それなのに春と似て眠くなることに関しては、先ほどの説明は成立しない。

 どの分野においても同じことが言えるが、科学とは現在分かっていることで目の前の現象を説明しているだけのことである。分かっていないことや、知り得ないことはさておいている。目の前の現象に対してできる限り矛盾を生じずに説明することが科学なのだ。だから、どんなにクリアカットな説明も真実とは限らない。どんな学説に対しても眉に唾する姿勢で臨まなければならない。
 「春眠暁を覚えず」に関する仮説も例外ではない。気温変化に伴う自律神経系の変化、日照時間の変化に伴うメラトニン分泌量の変化。どちらも大きく関与していることは間違いではないだろう。しかし、それだけでは十分に説明ができない。今のところ、暑すぎず寒すぎない快適な環境温度と、適度な湿度、さらには自律神経系機能やメラトニン分泌量などのバランスが引き起こす現象と言っておいた方が適切なのではないだろうか。

 間もなくベとベととまとわりつくような湿気の梅雨がやってくる。せいぜい今のうちに心地よい眠りを楽しんでおこう。

クリニック西川の近隣の医療機関

  • 東京都豊島区南大塚2-41-9 坂本ビル1F
    (距離:90m)
    内科、皮膚科、泌尿器科、性病科、アレルギー科、リウマチ科、リハビリテーション科
  • 東京都豊島区南大塚1丁目53-1
    (距離:92m)
    内科、外科、胃腸科、皮膚科、性病科、リハビリテーション科
  • 東京都豊島区南大塚1丁目51-1 百瀬ビル1F
    (距離:158m)
    内科、外科、胃腸科、肛門科
  • 東京都豊島区南大塚3丁目45-5 サンユースビル1F
    (距離:180m)
    内科、アレルギー科、心療内科、一般歯科
  • 東京都豊島区北大塚2丁目13-1 BA07-5F
    (距離:204m)
    内科、アレルギー科、小児科、耳鼻咽喉科、一般歯科、矯正歯科、小児歯科、歯科口腔外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、漢方内科
  • 東京都豊島区南大塚3丁目34-6 南大塚エースビル401
    (距離:204m)
    内科、精神科、皮膚科
  • 東京都豊島区北大塚2丁目13-1 BA07ビル7F
    (距離:204m)
    神経内科、婦人科、産婦人科
  • 東京都豊島区北大塚2丁目27-3 大塚メディカルビル地下1階~2階
    (距離:205m)
    内科、消化器科、皮膚科、肛門科

他の条件で医療機関を探す

最近閲覧した病院

医療機関の方へ

当サイトではお電話での対応を行っておりません。掲載についてのご連絡等は以下のページをご参照ください。
《掲載情報についてのご注意》

掲載の医療機関情報は、ティーペック株式会社および株式会社イーエックス・パートナーズが独自に収集、調査を行ったものを基に構築しております。出来るだけ正確な情報掲載に努めておりますが、掲載内容を完全に保証するものではありません。掲載されている医療機関へ受診を希望される場合は、事前に利用者の方々にて必ず該当の医療機関に直接ご確認ください。当サービスによって生じた損害について、ティーペック株式会社及び株式会社イーエックス・パートナーズではその賠償の責任を一切負わないものとします。
※お電話での対応は行っておりません

必ずご確認下さい
病気や症状に関するご相談や各医療機関への個別のお問い合わせなどは受け付けておりませんので、あらかじめご了承ください。