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医療法人理清会
馬場内科消化器科クリニック

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ピロリ菌について

最近、新聞やテレビなどでピロリ菌という言葉を聞いたり、目にしたりしませんか?このピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori) という名前の細菌で、近年胃潰瘍・十二指腸潰瘍・慢性胃炎・胃がんなどの病気との関連が注目されています。このピロリ菌についてお話しします。
従来、人間の胃の中は胃酸という強い酸があるために細菌が生息できない環境と思われてきました。しかし、1985年、オーストラリアのWarrenとMarshallが、人の胃の中にらせん型をした細菌が存在することを発表し、ここからピロリ菌の研究が始まりました。その後このピロリ菌が、様々な胃の病気と深く関わっていることが次々と明らかになってきました。


ピロリ菌の特徴
ピロリ菌は、らせん型の形をしていて鞭毛を持っており、大きさは5~10μm位、胃の粘膜の表面にある粘液層に住んでいます。少し難しい話になりますが、この細菌は非常に強いウレアーゼ活性という性質ががあるために、尿素をアンモニアに変える能力を持っています。このアンモニアが胃粘膜を傷害したり、他にも様々な炎症を起こす物質(サイトカインといいます)が発生したりして、胃に炎症をもたらすと考えられています。
また、この菌が感染する経路は主に経口感染といわれていますが、はっきりとしたことはまだ分かっておりません。しかし、下水道などのインフラ整備が整っている欧米などの先進国では感染率が低く、整備の遅れている発展途上国では感染率が高いことが分かっていますので、他の感染症と同様、衛生的な社会環境のもとでは感染がおこりにくいことは事実のようです。

ピロリ菌と胃の病気
ピロリ菌が関係していると思われる胃の病気は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、ある種の慢性胃炎、胃がん、胃のリンパ系の腫瘍(MALTリンパ腫といいます)などが挙げられます。しかし、ピロリ菌に感染したからといって必ずこれらの病気にかかるかというとそうではありません。むしろ、ピロリ菌に感染しても全く無症状のため、一生胃の病気を経験せずに済む方のほうが多いと考えられています。ちなみに日本人のピロリ菌の感染率は、年代によっても異なりますが50~60%といわれています。
もし、結核に対する結核菌のようにピロリ菌がこれら胃疾患の直接の原因であるなら、日本人の半分以上の人が胃がんや胃潰瘍にかかるということになりますが、現実はそうではありません。従って、ストレスや発癌物質などに代表される他の要因が複雑に絡み合って病気が発生するものと考えられています。

ピロリ菌の診断法
実際にあなたの胃にピロリ菌がいるかどうかを診断する方法には、胃カメラで胃の組織を採取して調べる方法、血液や尿の抗体を調べる方法、尿素を飲んでしばらくたった後の呼気(吐く息)を調べる方法など様々なものがあります。

ピロリ菌の治療
ピロリ菌に感染していることが分かったら、必ず治療しないといけないのでしょうか?現在のところそうではありません。ピロリ菌の治療(除菌療法といって潰瘍の治療薬と抗生物質を一週間服用する治療)が実施できるのは、活動性の消化性潰瘍で、なおかつピロリ菌が陽性の方のみです。慢性胃炎や、ただピロリ菌が陽性というだけの方は対象となりませんし、胃潰瘍や十二指腸潰瘍であっても瘢痕といって潰瘍の傷跡があるだけの方も適応にはなりません。また、活動性の消化性潰瘍も、従来の潰瘍薬による治療だけで潰瘍そのものは比較的速やかに治りますので、それで十分という考え方もできます。
では、なぜわざわざピロリ菌を除菌する必要があるのでしょうか。それは、潰瘍体質からの離脱という利点があるからです。以前から、消化性潰瘍は一度治ったと思っても再発する事が多い点が問題となっていました。人によっては毎年同じ季節になると潰瘍が再発したり、薬を飲むのを止めるとすぐに再発する場合もあり、消化性潰瘍の再発をいかに防ぐかが内科医の大きな課題だったのです。
ところがWarrenとMarshallの発見以来、ピロリ菌が潰瘍再発に深く関係しているのではないかということから、世界各地でピロリ菌陽性の消化性潰瘍患者に抗生物質などによる除菌療法が試みられるようになり、その成果が数多く報告されてきました。その結果、現在では潰瘍薬1種類と、抗生物質2種類を一週間飲むことで、およそ90%以上の除菌成功率となり、また、除菌成功者の80~90%の人が潰瘍を再発しないで済む時代に入ったわけです。従って、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が持病の様になって憂鬱の種であった人たちには、ピロリ菌の除菌療法は福音となる可能性があります。
また消化性潰瘍以外の胃の病気に関する除菌療法の是非については今後の研究課題と言えるでしょう。

最後に
最近のマスコミ報道を見ると、胃の病気は全てピロリ菌に原因があるかのごとく報じられています。確かに上に述べた胃の病気にピロリ菌が深く関与しているとは思われますが、一方でピロリ菌感染のない胃がん、胃潰瘍、慢性胃炎があるのも事実です。従って、あなたがピロリ菌陰性だと診断されても「自分は胃がんには絶対にかからない。」と勘違いしないで下さい。
また、逆にピロリ菌陽性だから「将来胃がんにかかる可能性が非常に大きい。」と悲観する必要もありません。大事なことは、ご自分の胃の健康チェックを定期的に受けておくことなどです。
「敵を知り、また己を知れば百戦危うからず」ということわざのとおり、ピロリ菌に関する知識をもち、かつご自分の胃の状態を把握しておくことが、あなたの胃の健康を守る上で非常に大切なことなのです。