腹壁ヘルニア

初診に適した診療科目

腹壁ヘルニアはどんな病気?

腹壁ヘルニアとは腹部の前壁が弱くなり腹部の内容物が突出する疾患です。
腹壁ヘルニアはその部位にふくらみが生じるものの、不快感はなく無症状の場合が多いです。
しかし一部のヘルニアは嵌頓と呼ばれるはまり込んだ状態になり、まれに腸が壊死するケースがあります。これによって命に係わる場合があります。

また腹壁ヘルニアを発症することで生じるふくらみは重い物を持ち上げたりいきんだりするとさらに明確にになったり、その時だけ現れる場合もあります。

腹壁ヘルニアはごく一般的な疾患で、男性によく見られる傾向があります。
腹壁は基本的に丈夫な構造をしていますが、生まれつきや手術、外傷、加齢などの原因によって脆弱な部位があり、そこにヘルニアができやすくなります。
腹壁ヘルニアの中でも発症した部位によって名称があり、へそ(臍部)周囲に生じるものを臍(さい)ヘルニア、へその上あたりに生じるものを上腹壁ヘルニア、手術による腹壁の切開部に生じる腹壁瘢痕(はんこん)ヘルニアなどがあります。

主な症状

腹壁ヘルニアの多くは無症状です。主に腹部に突出したふくらみが確認でき、多少の違和感を感じる場合もあります。
ヘルニアは突出した部分を元に戻すことが可能ですが、まれにヘルニアが嵌頓してしまう場合があります。
嵌頓とは腸や脂肪の一部がヘルニアにはまりこんだ状態を指しており、嵌頓となることで腸が詰まる腸閉塞を引き起こす原因となります。

腸閉塞を発症した場合には伴って激しい症状が現れます。
特に腹痛やお腹の張り、排便の停止、嘔吐などの症状が典型的です。
さらに腸がヘルニアに非常にきつく挟まった場合、絞扼と呼ばれる腸への血流が絶たれた状態を引き起こします。
絞扼を生じた場合約6時間ほどで挟まった部分の腸の組織が腐敗する、壊疽を起こします。
このような流れで腸壁が壊死して腸が破裂した場合、腹膜炎やショックを生じた場合には、命に係わる場合もあります。腸が壊死した場合も、絞扼性腸閉塞と呼ばれる緊急性の高い腸閉塞を引き起こします。

主な原因

腹壁ヘルニアはには臍ヘルニア、上腹部ヘルニア、半月状線ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなどの種類があり、発症する原因も異なります。
臍ヘルニアの多くの場合は生まれつきの先天的なものですが、肥満、腹水貯留、妊娠、長期腹膜透析などを要因として続発する場合もあります。
排便時のいきみや激しい咳、排尿障害・出産・重いものの運搬などは腹部に強い圧力を生じるため、比較的軽易に突出することがあります。
先天性の臍ヘルニアは多くの新生児に見られるもので、へその緒の血管の開口部が完全に閉じていないために起こります。
比較的小さなものが多いですが、小児の段階で自然に閉じているかを確認するなど経過観察が必要です。

腹壁瘢痕ヘルニアは過去に腹部の手術を行った人に発症するもので、手術創にヘルニアを生じます。手術を行って何年も経過してから発症するケースも珍しくありません。

上腹部ヘルニアは上腹壁にもともとある小さな欠損部にヘルニアが生じるものです。

主な検査と診断

腹壁ヘルニアの診断には問診や触診、腹部CT検査などが行われます。
多くの場合は特徴のある臨床的な身体所見から診断が下されます。腹部に現れるふくらみは、腹部に圧力がかかることでよりはっきりと現れる場合があります。
そのため診察は立った状態で行われ、患者に咳をしてもらうなどによってその部位を確認します。

特に鼠径部(そけいぶ)のヘルニアに症状が類似した疾患としてはリンパ節の腫れや停留精巣などが挙げられます。
陰嚢に腫れが見られる場合、精索静脈瘤、精液瘤、精巣の腫瘍である可能性があります。

嵌頓ヘルニアなど緊急性の高いヘルニアの場合には腹部CT検査が行われ、ヘルニアを発症している部位や腹膜炎を発症していないかなどを確認します。
嵌頓ヘルニアの場合は痛みが強いなどの自覚症状から疑うこともできます。
同様に絞扼性ヘルニアの場合は絶え間ない痛みが徐々に強まり、吐き気と嘔吐を伴うなどの症状が他のヘルニアとは異なる点です。

主な治療方法

腹壁ヘルニアの治療では、主に手術による修復が行われます。
現状元に戻すことが可能で無症状のヘルニアであっても、嵌頓ヘルニアや腸閉塞に進行する可能性があるため多くの場合は手術が選択されます。
ただ乳児の臍ヘルニアの場合に限っては、絞扼を起こすリスクが低く、数年以内に自然に消失することがほとんどであるため治療は行わずに経過観察となることが多いです。
臍ヘルニアが非常に大きいなど何らかの影響が懸念される場合、乳児が2歳になるのを待ち手術による治療が行われます。
成人の臍ヘルニアは美容的な観点から修復が行われますが、絞扼や嵌頓のリスクは極めて低いと言えます。

また臍ヘルニア以外の腹壁ヘルニアは基本的に絞扼を起こす可能性があり、診断された段階で手術が検討されます。
内容物が再び突出しないように、開口部を閉じたり覆う方法が一般的です。またヘルニアが嵌頓や絞扼を起こしている場合には緊急で手術による修復を行う必要があります。