完全大血管転移 カンゼンダイケッカンテンイ

初診に適した診療科目

完全大血管転移はどんな病気?

完全大血管転移とは、大動脈と肺動脈が入れ替わっている状態で、具体的には心臓の右室から大動脈が出て左室から肺動脈が出ている先天性の心疾患です。
中でも心室中隔欠損がないものをⅠ型、心室中隔欠損があって肺動脈狭窄がないものをⅡ型、心室中隔欠損と肺動脈狭窄があるものをⅢ型と分類されます。心臓などの組織がつくられ始める受精後3-4週と早い段階で発生する疾患です。

大動脈と肺動脈が入れ替わっているため、酸素が豊富な血液は肺と心臓の間のみを循環し全身に循環しません。
反対に酸素の少ない血液が全身に流れます。出生してすぐに呼吸困難や唇と皮膚の色が青みがかっている重症なチアノーゼが症状として現れます。
生後数日以内のなるべく早い時期に手術による治療が行われます。

難病指定されている疾患で、発生頻度は全体の約0.05%とされており、生後すぐに現れるチアノーゼ疾患では最も多いとされています。
男女比でみると約2:1で男性に多い傾向があります。

主な症状

完全大血管転移である場合、特にⅠ型の場合重症なチアノーゼが症状として現れます。
Ⅰ型と比較するとⅡ型ではチアノーゼがやや軽く、多呼吸、哺乳困難,乏尿などが症状として現れます。これは心不全症状と言えます。
Ⅲ型は肺動脈狭窄の程度にもよりますが、狭窄が強くなければⅠ型Ⅱ型で見られるような症状は比較的軽い場合が多い傾向にあります。
生後3から6週間頃には特に多呼吸、頻脈、多汗に代表される心不全の症状が強く現れます。

心室中隔欠損と肺動脈狭窄を合併しているⅢ型では、ファロ-四徴症と呼ばれる先天性心疾患とよく似た症状が現れます。
ファロ-四徴症は心室中隔欠損、大動脈騎乗、肺動脈狭窄、右室肥大を特徴とする疾患です。

完全大血管転移を発症して生まれた場合、生後すぐに大動脈や肺動脈を正常な位置に戻す手術が行われますが、この手術を行った患者が成人になると三尖弁閉鎖不全、右室不全、不整脈などを発症する場合があります。

主な原因

完全大血管転移の原因は心臓が発生する過程において異常が生じ、大動脈が右室へ、肺動脈が左室へつながることで起こります。
これは正常な心臓は大動脈と肺動脈の付け根がらせん状に発生する円錐動脈幹中隔で分かれてそれぞれの正しい場所に繋がりますが、中隔部分が何らかの要因でらせん状ではなく直線的に発生したためと考えられています。この発生時期は受精後かなり早い3-4週頃とされています。

完全大血管転移は必ずしも遺伝するものではありませんが先天性心疾患を持つ母親から生まれた子供の場合、先天性心疾患を発症する確率は約2-12%とされており、父親に先天性心疾患がある場合は約1-3%とされています。

生後すぐに手術などの治療が行われなかった場合、Ⅰ型が最も予後が悪く、低酸素によって生後1か月で約80%が命を落とすとされています。特に心不全の症状が強い場合は予後が良くなく、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型ではⅢ型が最も予後が良好です。
生後の手術が行われた場合でも肺動脈狭窄、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈狭窄などを合併するリスクがあります。

主な検査と診断

完全大血管転移の診断には診察、心臓の超音波検査、心電図検査、胸部X線検査、心臓カテーテル検査などが行われます。
生後すぐにチアノーゼや血液中の酸素レベルが異常に低いという特徴が現れ、これによって完全大血管転移などの心疾患が疑われます。
聴診によって心雑音が認められることも多いです。心雑音は異常な心臓の構造血液が通ることで正常な心音とは異なる音が認められるものです。

その後、心臓の超音波検査によって詳しく血管の構造などを確認し、心臓の診断が確定します。必要に応じて心電図検査、胸部X線検査なども同時に行われます。

診断が確定したら治療のためにより詳しい検査が行われます。心臓カテーテル検査によって冠動脈の走行、心室中隔欠損の有無、位置などを確認することで手術の方法などが検討されます。
またこの心臓カテーテル検査は検査と同時に治療を行う場合もあります。挿入するカテーテルの先にバルーンをつけ、左心房の中でバルーンを膨らませます。
これによって心房中隔の欠損孔が広がりチアノ-ゼの改善が期待できます。

主な治療方法

完全大血管転移の治療は基本的に生後数日以内に手術が行われます。
手術までの生存維持のためにプロスタグランジンと呼ばれる薬剤を投与し、動脈管を開いたままにすることで血液中の酸素レベルを維持します。
プロスタグランジンが反応しない場合には、バルーン心房中隔裂開術によって欠損孔を開き、酸素が豊富な血液の流れを改善する方法などもあります。

Ⅰ型、Ⅱ型の場合は、新生児期に大動脈スイッチ手術と呼ばれるを方法で行われるのが一般的です。
大動脈と肺動脈を入れかえて正しい位置に戻し、冠動脈も移し変えるという手術です。Ⅲ型の場合には体重が増加するのを待ってから、ラステリ手術を行う場合もあります。
これらの手術方法が行えない場合には心房位転換術と呼ばれる方法が選択されます。

大動脈スイッチ手術の後の完全大血管転位症の予後は比較的良好とされていますが、合併を引き起こすリスクがあるため注意深く経過を観察する必要があります。また心房位転換術による手術を行った場合、成人になってから右心機能の低下や難治性不整脈、難治性心不全を発症する場合があります。