大動脈弁逆流症 ダイドウミャクベンギャクリュウショウ

初診に適した診療科目

大動脈弁逆流症はどんな病気?

大動脈弁逆流症とは大動脈弁閉鎖不全症とも呼ばれ、心臓にある大動脈弁の閉じ方が不完全な状態になることで大動脈弁で左室へ血液が逆流する疾患です。
大動脈弁とは心臓の左心室と上行大動脈の間の開口部にあり、左心室が収縮して大動脈に血液を送る際に開く弁です。
大動脈弁の閉じ方が不完全な状態であると、左心房から血液を取り込むために左心室が弛緩する際に大動脈から左心室に血液の逆流が生じます。
血液の逆流によって左心室内の血液の量が増加し、伴って血圧も上昇します。
この状態が続くと心臓にかかる負荷が大きくなるため、それに対抗するために心臓の壁を構成する筋肉が厚くなる心肥などが起こります。
しかし最終的には必要な血液を十分に供給することはできなくなり、心不全を引き起こすことが多いです。

突然発生する急性大動脈弁逆流症と徐々に発生する慢性大動脈弁逆流症とに分類され、原因もそれぞれ特徴があります。

大動脈弁逆流症による直接的な症状はありませんが、心不全を起こすことによって息切れや呼吸困難を引き起こす場合があります。

主な症状

大動脈弁逆流症を発症すると左心室が弛緩する際に聞こえる特徴的な心雑音が聴こえます。
ただそれ以外に目立った症状は現れないケースがほとんどです。無症状やごく軽症の場合は、生涯を通して問題が起こらない場合も多くあります。

大動脈弁逆流症から心不全を生じた場合、階段や坂道昇降など日常動作による息切れなどが症状として現れます。
症状が進行すると安静時にも息切れしたり呼吸困難が現れるケースがあり、これは明らかな心不全の症状と言えます。
呼吸困難は主に夜間に横になった際に生じるケースが多く、これは肺の上部にたまった体液は体を起こすと流出し、正常な呼吸が回復するためです。
また心筋への血液の供給が不足したことによって、狭心症を発症するケースもあります。この場合は伴って胸の痛みを生じます。
狭心症を発症する割合は大動脈弁逆流症全体の約5%とされています。

大動脈弁を通る血液が逆流することで急激な血圧低下がおこり、虚脱脈を引き起こすこともあります。

主な原因

大動脈弁逆流症の原因は弁そのものに異常がある場合と大動脈に障害がある場合とに分けられます。

大動脈弁に異常が起きる原因としては糖尿病や高脂血症、高血圧などによって障害を受けることが挙げあげられます。
感染性心内膜炎やリウマチ熱、梅毒の合併症として大動脈弁が破壊されるケースもあります。ただリウマチ熱と梅毒によるものは抗菌薬の使用が広まったことにより、現在ではかなり減少傾向にあります。抗菌薬がまだ使用されていない発展途上の地域においてはいまだに多い原因として挙げられます。

また弁に生まれつきの異常がある場合もあります。通常3つの弁から構成される大動脈弁が、もともと2つしかない二尖弁と呼ばれるものです。
二尖弁の場合、成長に伴って弁や上行大動脈が自然に脆弱化していくため大動脈弁逆流症を引き起こす代表的な原因の一つとされています。

また大動脈自体の病気としては大動脈解離、大動脈炎症候群、マルファン症候群などから大動脈弁閉鎖不全症を発症することもあります。

主な検査と診断

大動脈弁逆流症の場合、聴診で特徴的な心雑音を確認するなどの身体診察によって可能性が疑われ、多くは心エコー検査によって診断が確定します。心エコー検査では逆流の程度や心筋に及んでいる影響などを確認できます。また心エコー検査によって大動脈の拡張が疑われる場合、さらにCT検査やMRI検査によって大動脈解離の有無を詳しく確認することもあります。

また胸部X線検査や心電図検査を行うと多くの場合心臓の拡大が確認されます。
症状が進行していて手術が検討されている場合には、手術の前に冠動脈造影検査と呼ばれる検査も行われます。
冠動脈に造影剤を流して撮影する方法で、これによって併発している冠動脈疾患を発見することができます。全体の約20%で冠動脈疾患の併発が確認できるとされています。

また両親や兄弟姉妹、子どもなど第1度近親者に生まれつき二尖弁を持った人がいる場合、約20~30%の割合で二尖弁がみられることが分かっています。
これはスクリーニングを受けることで発見できます。

主な治療方法

大動脈弁逆流症の治療は内科的な治療と外科的な治療とに分けられます。
心臓の機能にも異常がなく、症状が軽い場合には経過観察となることも多いです。
心拡大や心機能低下が見られる場合にはまず内科的が行われます。腎臓の働きを高めたり、尿を出やすくする利尿剤などが用いられます。
また高血圧症に対しては血圧を下げる降圧薬なども用いられます。ただ内科的治療では根本的な改善は期待できないため、症状に応じて手術による治療が検討されます。

大動脈弁閉鎖不全症は無症状のまま進行することも多く、自覚症状は治療の判断をする指標としては不十分です。
代表的な手術の方法としては大動脈弁置換術、大動脈弁形成術、大動脈基部置換術などの方法があり、重症度や患者さんの年齢などさまざまな条件を考慮して選択されます。
弁の状態が良好な場合には自分の弁を修理する大動脈弁形成術が適応されることが多いです。
大動脈基部置換術も人工弁を使用しつつ自己弁温存も図る方法です。重症の場合には人工弁を使用する大動脈弁置換術が選択されます。