弁狭窄症 ベンキョウサクショウ

初診に適した診療科目

弁狭窄症はどんな病気?

弁狭窄症とは大動脈弁の開口部が開かなくなることで心臓から全身に血液が送り出しにくい状態になる疾患です。
心臓の左心室と大動脈の間の開口部にある大動脈弁と呼ばれる弁は血液を大動脈に送り出すために開きます。
この弁が厚く硬くなると弁の開口部が狭くなる狭窄と呼ばれる状態になります。
この状態になると大動脈へ血液を送り出す際に左心室への負担が大きくなり、それによって筋肉の層が厚くなる、さらに多くの血液が必要になるという状態に陥ります。
血液の供給不足によって胸の圧迫感や失神などの症状が現れたり、心筋が弱くなることで心不全を引き起こすなど命に関わる場合もあります。

主に60歳以降の高齢者に多い疾患とされていますが、症状が健著に現れるのは70~80歳以降です。70歳未満で見ると心臓の弁の先天異常を原因とするものが最も多いです。乳児期は先天異常があっても健康に大きな影響なく過ごすことが可能ですが、成長に伴って心臓は成長し必要な血液の量も増加するため徐々に症状が現れます。

主な症状

弁狭窄症になると運動時に胸の圧迫感、呼吸困難を感じたり運動中に疲労感や息切れなどの症状が現れます。
重症化すると血圧が突然低下し、前兆症状もなく運動中に突然失神するケースもあります。

狭心痛と呼ばれる胸の痛みや圧迫感が起こるのは心筋に充分な血液が供給されないためです。
弁狭窄症になると結果として左室が肥大し、心筋に必要な酸素量が多くなります。それに対する供給が間に合わずに狭心痛として症状が現れます。

失神やめまいは脳の血流の低下によって起こります。大動脈に送り出される血液の量が減少することで階段や坂道などの軽い負担によって血圧が下がり、脳の血流も低下するためです。

弁狭窄症になると心不全と呼ばれる心臓のポンプ機能が低下した状態を引き起こすこともあります。左心がうまく働かないことで肺での二酸化炭素と酸素の交換がうまくできずに呼吸困難に陥ります。

失神、狭心痛、呼吸困難などの症状が現れる頃には症状はかなり進行しています。重篤な症状を自覚し始めて2~3年で突然死を引き起こす場合もあります。

主な原因

弁狭窄症の原因としては生まれつきの先天異常、動脈硬化、リウマチ熱の後遺症などが挙げられます。
先天異常の具体的な例としては本来3枚あるはずの大動脈弁の弁尖が、生まれつき2枚しかないなどがあります。
弁尖が2枚の場合、狭窄が起こりやすくなります。
成長に伴って増加する血液を少ない弁で送り出す必要があり、弁に負担がかかったままの状態が続きます。
この状態で数年経過すると、弁の開口部にカルシウムが蓄積し、開口部がより硬く狭くなっていきます。

高血圧や糖尿病、高脂血症などは動脈硬化の代表的な要因として知られています。動脈硬化は大動脈弁にも起こり、弁尖の石灰化が進行します。特に高齢者の場合は、硬化・石灰化した大動脈弁狭窄症が多く見られる傾向があります。石灰化性の大動脈弁狭窄症は年々増加傾向にあります。

リウマチ熱の後遺症として発症する動脈弁狭窄症は発展途上国においては一般的な原因とされていますが、衛生環境の向上や抗菌薬が普及したことによって日本国内では減少傾向にあります。

主な検査と診断

弁狭窄症の診断には問診や聴診、心電図検査、胸部エックス線検査、超音波検査、心カテーテル検査などが行われます。
聴診では弁狭窄症特有の心雑音を聞き取ることができ、狭窄が進行するほど音が大きくなるという特徴があります。

胸部エックス線検査では左室の拡大や上行大動脈の拡大があるかを調べることができます。
これは弁狭窄症を発症してすぐの状態ではあまり確認できません。一旦は代償機構が働くため、左室の拡大はやや時間をおいて見られます。

超音波検査では左心室の機能を確認したり、弁口面積を確認することができます。
弁口面積は弁狭窄症の重症度を図るために重要な指標となります。症状が軽度であっても超音波検査を半年や1年に1回程度定期的に続け、経過観察を行うことも大切です。

心臓カテーテル検査は左心室と大動脈の圧力の差を測ることができる検査で、弁狭窄症であるにも関わらず症状が出ない人に対しては負荷試験と呼ばれる方法で行われることが多いです。

主な治療方法

弁狭窄症の治療は薬物による内科治療、手術による外科治療が選択されます。
症状が現れていない軽症の場合には内科治療によって経過観察となるケースが多いですが、薬で弁の狭窄を改善することはできないため、長期的には有効とは言えません。

症状が出ている場合や心機能の低下が見られる場合は重症と判断され、手術が行われることが多いです。
異常のある心臓弁を置き換える置換手術が一般的で、手術後の予後も良好な方法と言えます。
また先天異常による場合はバルーン弁切開術という方法も検討されます。
これは先端にバルーンをつけたカテーテルを心臓内に挿入し、弁の内部でバルーンを膨らませ、癒着した弁尖をはがす方法です。特に小児やまだ若い成人に対して行われるケースが多いです。

手術中の合併症を引き起こすリスクが高い患者に対しては経カテーテル大動脈弁置換術と呼ばれる方法が検討されます。大腿動脈からカテーテルを通して心臓弁を置換する方法です。