MERSコロナウイルス

初診に適した診療科目

MERSコロナウイルスはどんな病気?

MERSコロナウイルスとは、中東呼吸器症候群とも呼ばれるウイルス性の感染症の一種です。
2012年9月に初めて報告され、中東を中心に欧州などでも症例が報告されています。2002年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)との類似の病原体です。
急性の重篤な呼吸器症状が主な特徴で、発熱、せき、息切れや呼吸困難などの症状も見られます。
免疫不全などの基礎疾患のある人は症状が重症化しやすく、悪化して死亡するケースもあります。
潜伏期間は2~14日と言われています。咳やくしゃみなどの飛沫感染や接触感染によって、主に家族間や患者と医療従事者との間などで感染すると考えられています。
またヒトコブラクダがMERSコロナウイルスの保有動物であることが分かっており、感染源とする説もあります。
季節性インフルエンザなどと比較しても感染力は弱いとされています。

MERSコロナウイルスに対してワクチンや特異的な治療法はなく、現れる症状に対しての対症療法が中心となります。

主な症状

MERSコロナウイルスを発症すると、せきや呼吸困難などの重い呼吸器症状が現れる点が特徴と言えます。
場合によっては腎炎や脳炎を引き起こし、死に至るケースもあります。基本的には発熱、せき、息切れが典型的な症状であり、インフルエンザの初期症状とよく似ています。
消化器症状を伴うケースも見られ、下痢などの症状が現れる場合もあります。
感染していても症状が特に現われない人や、軽症の人も珍しくありません。
症状が悪化しやすいとされているのが高齢者や、糖尿病、慢性肺疾患、慢性腎臓病、免疫不全などの基礎疾患を抱える人です。
中東地域の報告では、症状が悪化して死亡に至った割合は全体の約35%とされています。
また合併症としては、急性呼吸窮迫症候群、腎不全を含む多臓器不全、敗血症ショックなどを発症することもあります。

発熱、肺炎などの症状がはっきりしている患者は、感染力が強い状態にあると言えます。予防のためにはむやみに接触しないよう注意する必要があります。

主な原因

MERSコロナウイルスは、ウイルスへの感染が原因で発症しますが、現在のところ人がこのウイルスにどのようにして感染するのかについては明らかになっていません。
MERSコロナウイルスはヒトコブラクダと呼ばれる動物の体の中に存在していることが分かっています。
感染したラクダと接触することで人に感染すると考えられていますが、動物との接触がない場合にも感染は見られます。
そのため人と人の間の感染も存在するとされており、特に病院内における患者と医療従事者、患者とその家族など、濃厚接触者間で特に感染が広がると考えられています。
咳やくしゃみなどによる飛沫感染はもちろん、患者の糞便などにもウイルスが含まれます。
ドアノブや箸からの接触感染にも注意が必要です。

コロナウイルス自体は一般的な風邪の原因ウイルスとして存在するものでありふれたウイルスとも言えますが、その中には重度な呼吸器症状を引き起こす種類があり、MERSコロナウイルスはそれに該当します。
その他の例としては、2003年に流行したSARSコロナウイルスが挙げられます。

主な検査と診断

MERSコロナウイルスの診断には、分離同定検査、PCR法と呼ばれる方法を用いて行うのが一般的です。
分離同定検査とは鼻水やたんから病原体ウイルスを特定する検査方法です。PCR法とは、ウイルス遺伝子を検出する検査方法です。
また症状が悪化すると呼吸器症状が悪化したり急性呼吸窮迫症候群、腎不全、敗血症を併発するケースがあるため、必要に応じて胸部レントゲン検査やCT検査、尿検査、血液培養検査なども行われます。地方衛生研究所などの都道府県にある検査機関でMERSのスクリーニング検査を行い、検査結果が陽性の場合に国立感染症研究所でも確定検査が行われ、少なくとも2つの遺伝子領域が確認された場合に確定診断となります。

また感染を防ぐためには海外渡航時には、手洗いを徹底し動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を心がけることが重要です。
またMERSコロナウイルスの患者が発生している国に滞在した後に、発熱や咳などの呼吸器症状が現れた場合には、検疫所での申告や保健所への連絡が必要です。

主な治療方法

MERSコロナウイルスの治療にあたり、現在ワクチンや特異的な治療方法はありません。
患者の症状に合わせて治療を行うことになります。 呼吸器症状が悪化した場合には酸素投与、人工呼吸器管理などが程度に応じて行われます。
肺炎をきっかけに急性肺障害を発症した場合などには、好中球エラスターゼ選択的阻害薬が使用できます。
腎不全に対しては透析治療、敗血症に対しては抗生物質の投与など、症状に応じた治療が選択されます。

根本的な治療法確立していないため、基本的な感染予防策も重要になります。
飛沫感染を防ぐためにはマスクの着用が効果的です。接触感染を防ぐためには手洗いをはじめ、感染している患者の糞便や尿、電話機、ドアノブ、エレベータのボタンなどへの接触にも注意が必要です。市販のアルコールや中性洗剤でも消毒の効果が期待できます。
日常生活に取り入れやすい点が魅力と言えます。MERSコロナウイルスが確認されている地域を訪れた後は、帰国後の体調の変化にも注意が必要です。