脈なし病 ミャクナシビョウ

初診に適した診療科目

脈なし病はどんな病気?

脈なし病とは、大動脈に炎症が起こる自己免疫疾患の一種で、現在では高安動脈炎と呼ばれています。
以前は脈なし病の他、大動脈炎症候群、高安病と呼ばれていたこともあります。
脈なし病は大動脈及やその主要分枝部分、肺動脈、冠動脈などに炎症を生じる大型血管炎です。
動脈に炎症を起こすことで腕にも酸素や栄養が十分に供給されず、手の脈が触れなくなることから脈なし病と呼ばれています。
発症は20~30歳の女性に特に多く男女比は1 : 9とされていますが、中高年以降の発症も稀ではありません。日本を含むアジア、中近東や南米などでよく見られます。

厚生労働省の特定疾患に指定されています。発熱、倦怠感などの全身症状や、眩暈、頭痛、脈拍の消失・減弱、視力障害など症状は幅広く現れるのが特徴です。
主な合併症としては弁膜症や脳出血などが挙げられます。

治療はステロイド剤による薬物療法が一般的ですが、虚血などの症状が重篤な場合には手術による血行再建術などの治療も検討されます。

主な症状

脈なし病は主に大動脈弓や分枝血管に障害を来すことから、その狭窄、閉塞した血管に影響する臓器に症状が現れます。
全身症状としては発熱、倦怠感、関節痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、若年者に見られる高血圧などが挙げられます。
頸動脈痛、胸痛、背部痛、腰痛、肩痛、上肢痛、下肢痛などの痛みや、視力障害、眼前明暗感、失明、眼底変化など眼に関わる症状、頭痛、歯痛、顎跛行、めまい、難聴、耳鳴、失神発作、頸部血管雑音、片麻痺などの頭頸部症状も現れることがあります。
その他にも上肢や下肢にしびれ、息切れ、動悸、呼吸困難、血痰、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈、心雑音、背部血管雑音など全身のさまざまな部位に症状が現れます。

脈なし病の一部にみられる大動脈弁閉鎖不全症は特に予後に影響する合併症と言えます。
また冠動脈に狭窄を生じた場合には狭心症、急性心筋梗塞を生じたり、頸動脈に狭窄を生じた場合には脳梗塞を生じるなど、合併症によって命を落とす可能性もあります。

主な原因

脈なし病の発症のメカニズムは現在のところ明らかにされていない部分が多いですが、何らかのウイルスによる感染症が発症のきっかけになる可能性があるとされています。
ウイルス感染に続く形で血管炎が生じるという流れで脈なし病を発症すると考えられています。
また、体質的な要因も関連しているとされており、特に特定のHLA、疾患感受性遺伝子などとの関連が見つかっています。

何らかの原因で血管に炎症が起こり、血管壁が厚くなることで狭窄、閉塞や拡張を来します。
血管が狭窄、閉塞した場合には血流が障害されることで症状を引き起こし、血管が拡張した場合には動脈瘤などによって症状が引き起こされます。
身体の至る部位にさまざまな症状が現れるのは、病変が生じた血管領域によって影響を受ける部位が多岐に渡るためです。

特定の人種や地域に限定して発症する疾患ではありませんが、アジア、中近東、南米でよくみられ、日本は特に発症が多い地域に含まれます。

主な検査と診断

脈なし病は厚生労働省の難病情報センターの診断基準を基本としながら、血液検査、超音波断層検査、血管造影検査、CT検査、MRI検査、PET-CT検査などが行われます。
診断基準としては幅広い症状、検査所見、鑑別診断が示されており、症状に一つでも当てはまり、いずれかの検査所見がみられ、鑑別が必要なその他の疾患でないと明らかになれば診断がくだされます。

血液検査では赤沈亢進、白血球増加、凝固能亢進などが主な特徴として確認できます。
超音波断層検査では総頸動脈の壁肥厚と狭小化を確認することができ、簡便な検査であることから脈なし病においては有効性の高い検査と言えます。
血管造影検査は、血管にカテーテルを挿入して造影剤を注入する検査です。
血管の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤の有無などを確認でき、さらに検査を行う過程で血管内治療も実施できる点が利点です。
動脈の狭窄程度を判断するためにCT検査、MRI検査なども行われます。
PET-CT検査では炎症部位を確認することができ、例えば大動脈炎の診断などに役立ちます。

主な治療方法

脈なし病の治療には、内科療法として副腎皮質ステロイドを用いることが多いです。
炎症を抑える効果が期待できますが、副腎皮質ステロイド単体では、全体の約7割程度に一度炎症が治まっても再燃するリスクがあるとされています。
その場合、免疫抑制薬やトシリズマブを併用することも検討されます。
血栓性合併症に対しては抗血小板剤、抗凝固剤なども用いられます。

特定の血管病変から虚血症状が現れている場合、まずは内科的治療が検討されますが困難な場合には外科療法が選択されます。
頸動脈再建が主に行われます。外科手術は緊急の場合を除き、基本的に炎症が十分治まってから行われます。
急性期にステントを使用した血管内治療を行ったとしても、再狭窄を発症するケースがほとんどとされています。
例えば大動脈縮窄症、腎血管性高血圧に対して血行再建術を行う場合なら、薬剤によって改善がみられず、腎機能低下、うっ血性心不全などを来している場合に行われます。