軟性下疳 ナンセイゲカン

初診に適した診療科目

軟性下疳はどんな病気?

軟性下疳とは、軟性下疳菌と呼ばれる細菌に感染することで発症する性感染症です。
軟性下疳菌は感染後7日以内に性器に壊死性の強い潰瘍をつくる点が特徴です。旧性病予防法の対象疾患とされていました。
先進国ではまれな病気とされており、日本でも症例は少ない疾患です。
アフリカや東南アジアなどの発展途上国において発症が多い傾向にあります。

性器の感染部位に豆粒大のコブができ、その後は強い痛みをともなう潰瘍が患部に生じます。
男性であれば亀頭、冠状溝の周辺、女性であれば大小陰唇、膣口などに腫瘍が生じやすいです。
進行すると鼠径部のリンパが腫れ、自発痛、圧痛の症状も強く現れます。また潰瘍は広がっていくため、ソニ部分からヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染しやすくなるとされています。

軟性下疳は特徴的な症状から診察での診断も可能です。治療は主に抗菌薬などを使用します。予防のためには性交渉の際にコンドームを着用するなどの方法が効果的です。

主な症状

軟性下疳は、接触感染した後に約1~7日の潜伏期を経て、生殖器に赤みが現れ、水疱が性器や肛門付近に生じます。
この水疱が破れると縁がぎざぎざとした浅い潰瘍となり、広がって合体し大聞くなる場合もあります。
腫瘍が深くなると周囲の組織を傷つけることがあります。
陰部にできた潰瘍は強い痛みを伴い、性交渉などができなくなります。
また、病変部からの膿や血液に菌が存在するため、それらに触れることで周辺の部位にも潰瘍を生じます。

進行すると約2~3週間後には鼠径部のリンパ節が赤くなり大きく腫れます。押すと痛みを感じるようにない、内部に膿瘍と呼ばれる膿がたまった空洞ができます。
膿瘍が破れて膿が出てくることもあります。このようなリンパ節の症状は感染者の約半数に見られます。ズキズキとした激痛を生じる点が特徴です。

軟性下疳は特に潜伏期間が短く強い痛みを伴う点が特徴で、梅毒、クラミジアなど他の性感染症のように発見が遅れるケースは少ないとされています。

主な原因

軟性下疳は軟性下疳菌を呼ばれる細菌が原因で発症します。
東南アジア、アフリカ、南米などで発症が多い傾向にありますが、現在日本ではほぼ見られない性感染症です。
かつて昭和20~25年頃には日本でも軟性下疳を含めた性感染症の流行が確認されていましたがその後徐々に減少し、現在ではかなり希少な例となりました。
現在日本で発症している軟性下疳のほとんどが、東南アジアで感染しているケースです。
東南アジア、アフリカ、南米においてはいまだによく見られ、性感染症の中では梅毒よりも発症数が多いとされています。

軟性下疳に発症している人の症状が現れている部位に接触することで感染します。軟性下疳菌は病変部自体に接触することでも感染しますが、病変部からの膿や血液にも菌が存在しているため性交渉による感染リスクは高いです。軟性下疳が多くみられる海外でコンドームの使用なしに性交渉をした場合などに発症のリスクが高くなると言えます。発症後は強い痛みを伴うため、性交渉はほぼ不可能です。そのため発症後にパートナーへ感染するケースはまれです。

主な検査と診断

軟性下疳は特徴的な所見から、視診や触診のみで診断されるケースも多いです。比較的容易に診断できる感染症の一つと言えます。確定診断のためには病原菌を検出する必要があるため、染色鏡検、培養検査などが行われます。潰瘍面の分泌物を採取し、その組織を調べる検査です。サンプルを採取する際にも激しい痛みを伴うため、表面麻酔などを使用して採取する場合が多いです。染色検査はグラム染色、メチレンブルー染色などの方法で行われます。培養検査では採取した血液から菌を培養し、詳しく調べます。ただこれらの検査は軟性下疳においては実施が難しく、成功率も高いとは言えません。検査時に軟性下疳菌にさらされるリスクの方が高いと言えます。

軟性下疳の診断には、症状が類似している疾患として挙げられる性器ヘルペス、梅毒などとの判別が重要です。
また、梅毒やヒト免疫不全ウイルスなどを同時に発症しているかの検査も行われ、発症が確認されればそれらについてさらに詳しく検査を行う必要があります。

主な治療方法

軟性下疳に対しては抗菌薬による治療が行われます。
複数の抗菌薬が効果を示すと確認されており、セフトリアキソン、アジスロマイシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシンなどが挙げられます。
投与の方法としては薬剤の種類によって筋肉内注射、経口投与などがあります。
治療が有効な場合、1週間以内に改善がみられることが多いです。症状が無くなれば治癒とされます。
また抗菌薬を使用して感染症のリスクを抑えている状態であれば、患者の不快感を解消するために膿を排出するなどの処置も行われます。
患者のパートナーに対しては、感染しているかの検査も行われますがもしその時点で感染が見られないとしても、治療が行われるケースが多いです。

軟性下疳の予防に関しては一般的な性感染症の対策が効果的です。
コンドームの使用、セックスパートナーを頻繁に変えるなどリスクの高い性行為を避けることが大切です。
また、感染拡大を防ぐためにも迅速な診断と治療、さらに感染者の性的接触を正確に把握することが求められます。