今注目が集まっている医療や健康情報を病院検索ホスピタが厳選して分かりやすくお届け! 今回は『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』をご紹介させて頂きます。

生身を喰らう感染症

手足の壊死(えし)を引き起こし、発病から数時間で死に至ることもある「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者数が、日本で過去最多になっています。

劇症型溶血性レンサ球菌は、皮膚や筋肉に感染すると細胞が死んで黒くなるため、1994年イギリスのニュースが、あたかもバクテリアに食べられたかのような印象があるとして「Flesh-Eating(生身を喰らう)」と報道したことで、日本でも「人喰いバクテリア」として週刊誌でセンセーショナルに取り上げられ、話題になりました。
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患者数が、昨年ついに300人を越える

通称「人喰いバクテリア」は、1987年にアメリカで最初の患者が報告されて以来、ヨーロッパやアジアで患者が発生し、日本では1992年に千葉県の旭中央病院における男性患者の症例が最初の報告です。

1999年には、感染症法の「感染症全数把握疾患」となりました。これにより、医療機関は症例を国に報告する義務が生じます。つまり、政府が管理するほど重篤な病気であるということです。

国立感染症研究所は、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数が、調査を始めた1999年以降2010年まで年に100人前後だったのが、2012年以降は200人を超え、2015年ついに300人を上回ったと発表しています。同研究所によると、発症が多いとされる地域は、東京・神奈川・愛知です。
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一般的なウィルスが、原因不明で劇症化

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、主に「A群溶血性レンサ球菌」によって引き起こされる病気です。A群溶血性レンサ球菌といえば、一般的に「溶連菌」と呼ばれ、咽頭炎・扁桃炎・中耳炎などを引き起こすウイルスです。

日常的に人間の皮膚や喉に生息する「常在菌」と呼ばれる一般ウィルスの仲間です。子供の15~20%が喉に保菌しているといわれます。日本では年間約25万人の溶連菌による咽頭炎患者が発生していますが、その大半は4歳から9歳の児童です。

このように一般的なウィルスのA群溶血性レンサ球菌が、突然劇症化して起こるのが「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。何が原因で劇症化するのかは分かっていません。A群溶血性レンサ球菌が、傷口や喉などから血液中に入り劇症化するといわれています。
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皮膚の赤み・手足の痛みと腫れには注意

初期症状は、皮膚が赤くなる・手足の痛みと腫れ・発熱・血圧低下が代表的です。その後「壊死性軟部組織感染症」と呼ばれる急激に手足が壊死する症状を起こし、それに伴うショック、多臓器不全などを併発し、発病後数十時間で死に至るほどの疾患です。

死亡率は約30%と細菌感染症のなかでも高率です。溶連菌自体がどこにでもいる菌であるため、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が人から人に伝染することはありません。しかし、はっきりした感染源や潜伏期間は明らかでなく、60代以上の中高齢者を中心に突然発症するのが特徴です。
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効果的な予防法はなく、心配ならすぐ医師に相談

重症化して壊死性軟部組織感染症を引き起こした際の治療は、原則として手術です。菌の繁殖で壊死した体の一部は、手術によって切除することになります。それ以外の治療法は、いまの医学では残念ながらないようです。

手術を行わずに抗生物質での治療をこころみ、手遅れになって命を落とすケースもあります。劇症型溶血性レンサ球菌が全身に広がり、腎臓・肝臓・脳などの臓器に障害をもたらすためです。

現在、人喰いバクテリアを予防できる明らかな方法は見つかっていません。予防法がない以上、現実的な対応としては、初期症状を確認したり、思いあたるような症状がある場合は、すみやかに医師に相談することでしょう。検査は、目視判断のほか、画像検査・血液検査・細菌検査があります。個人院よりも総合病院や大学病院のような大き目の病院へ行くことをおすすめします。
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日本をはじめ、今後の研究に期待

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の研究は、世界各地で盛んに行なわれていますが、これまでのところ症状を起こす直接的な毒素は発見されていません。

国立感染症研究所は、毒素の産生を調節している遺伝子の変異によって起こる産生の増加が、劇症化に大きく寄与しているのではないかと発表しています。今後、研究が進みその仕組みが明らかになることが期待されます。

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